先日ロンドンに何回か行く機会があったので、
テート・モダン(Tate Modern)美術館に立ち寄ってみた。一番おもしろかったのは、「ビデオ・カルテット」だった。
映画の中の「楽器演奏のシーン」「音が出されるシーン」「歌のシーン」など変幻自在につなぎ合わせ、あたかも四重奏(カルテット)のように4つの画面に表現した作品である。
作品は『Video Quartet 2002』とあるように、すでに業界では4年前から有名な作品である。イギリスの田舎モノの私としては、このモダンな試みに素直に感動してしまったわけだが、なぜ感動したのかな、と考えてみた。
4つのビデオを同時に見る、という経験は日常にはあまり存在しない。テレビ局関係の仕事をしたことのある人は、日テレ、フジ、テレ朝、TBS、CNN、BBCがずらりと並んでいる職場はおなじみかもしれない。投資関係の人は、ロイター、ブルーンバーグ、日経テレコン、為替、日経平均先物の画面がたくさんあるのも当たり前だろう。
ごくまれに、1つのパソコン画面を4つに分割して、テレビ映像を見ているハイテクなお方がいるかもしれない。先日の
「ピアニストの輝き:ブログ版コンサートへのご招待」というエントリでは、珍しくYouTubeを4つ並べてみたが、試しにこの4つを同時に再生して楽しめるかどうかやってみたら、頭の痛くなる結果となった。
しかしながら、音を出さずに「演奏」を眺めることに徹してみると、88の鍵盤の上で踊る「指先バレエ」として、4つの映像を同時に楽しむというのは「あり」かもしれないと思った。
速読の基本訓練として「周辺視野を鍛える」があるが、4つの動画を同時再生する方法は、この訓練のために使えるのでは・・・と、たった今思いつき、いいアイデアがないか考えているところである。(参考:
映像思考の男女差:「3次元クルクル」で世界は変えられるか)
さて、テート・モダンで見た『Video Quartet 2002』は、横1列の4画面である。視点を中心に置いて4画面が楽しめるかどうか実験してみたが、右端と左端は広がり大きすぎて細かいイメージがわからなかった。ということで、視点を終始移動しながら、この「四重奏」を聴き、眺めることになった。
ピアノのシーンもいろいろあるものである。タバコを吸いながら弾く、手を空手チョップにして弾く、1本指で弾く、体も腕もない「手」だけのお化けが弾く(映画『アダムズ・ファミリー』)、足で弾く・・・など。
音楽は見て楽しむ側面もある。ピアノニストの腕の動き。ダブルベースをクルリと回転させるしぐさ。トランペットやクラリネットの上下運動。弦楽器を走る弓のダンス。オルゴールで回転する人形・・・など。
主旋律と副旋律のメリハリもある。「カラー」と「白黒」の映像では、カラーにスポットライトがあたる。動きのある映像、静止している映像。大きな音の映像、ささやきのような映像。スピード感のある映像、緩やかな映像・・・など。
旋律のいわゆる「掛け合い」もある。同じ映像をスクリーンのポジションを変えて何度も使うと「フーガ」や「輪唱」になったりする。左画面で「ノックの映像」があると、右画面に「ドアに耳を当てる映像」が応えたりする。
楽器以外の音のシーンもふんだんにある。タップダンス、目覚まし時計、花火、食器やグラスを叩く音。打楽器に匹敵する音は日常生活にたくさんあるが、「車の急カーブでタイヤが擦れる音」などは、弦楽器系かもしれない。まったくの余談だが、ゴジラの絶叫は、コントラバスを松脂の手袋でこすった音である。
四重奏とはいうのものの、最初は圧倒されるばかりで、3回ぐらい見ないと全体の構成はわからないかもしれない。
◆fogless:「exhibitions: Christian Marclay」(2003/8)
作品は一見、支離滅裂なように見えるが、じっくり追ってみると、始まりから中間部を経て終盤部へと展開する三部形式のように構成されていることに気付く。出だしはこれから演奏会が始まることを伝えるように、手書きの楽譜や譜面台が待つステージの映像から始まる。そのあとピアノやバイオリンの音あわせが続き、それが終わったところでマリア・カラスの雷鳴のような声が4画面から響き渡り、演奏本番である中間部に入ったことを告げる。
『Video Cartet』をつくったChistian Marclayは、映画シーンのバラバラ編集がお好きな人で、以前は映画の「電話が鳴って、受話器を取るシーン」だけを寄せ集めたこともある。あるいは、レコードをバラバラに切って、3〜4ピースを貼りあわせて1枚のレコードにするとどうなるか、という実験もしている。
YouTubeの映像は臨場感いまひとつだが、さわりの部分だけでもお楽しみあれ。
■YouTube:「Christian Marclay's Video Quartet - Excerpt #1」3分
■参考:クリスチャン・マークレー(Christian Marclay)
White Cube presents Christian Marclay - Video Quartet
YouTube:「Christian Marclay mini documentary」(5分50秒)
posted by ヒロさん at 22:09
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♪音楽たのしいなぁ