ナポレオン・ヒルは「人間とは考えていることがすべてだ」と言った。一方、近所の自然食品店のオバサンは「人間とは食べているものがすべてだ」と言いながら、これも買え、あれも買えという。
食べた物の「気質」が体内に宿り、その人の人生をかたどっていく、ということだ。シュタイナーのアントロポゾフィー医学に言わせると、同じ糖分を摂るにしても「サトウキビ・ハチミツ・甜菜」はそれぞれ「茎・花・根」から取れるものなので、それぞれに対応する体の局部に影響を与えるという。
日本人が柔和(優柔不断?)なのは、海産物の摂取量が多いからだという説もある。貝のように口を閉ざし、昆布のように状況になびき、マグロのように横たわる・・・。韓国人の気性が激しいのは、牛肉(牛骨)・ニンニク・トウガラシが原因だという人もいるが、確かに思い当たるフシはある。
子供の本棚から抜きとって読んでみた『ぽっぺん先生と帰らずの沼』も食べ物の話、とりわけ食物連鎖の話だった。このストーリーはとても変り種で、食べられた方の意識が食べたほうに乗り移っていく。主人公のカゲロウが魚に食べられて、ああ、もうおしまいだ、と思いきや、自分が魚になっている。
この魚がトリに食べられるとトリが「私」になり、このトリがイタチに食われるとイタチが「私」になってしまう。つまり食物連鎖による輪廻転生、生まれ変わりだ。そのうちに人間になりたいという欲が出て、どうやったら人間に食べてもらえるものか、あれこれ策を巡らせるいう設定になっている。
◆舟崎克彦『ぽっぺん先生と帰らずの沼』(岩波少年文庫)p143
「ああ。なんて孤独なんだ・・・」 先生はためいきをつくと、やがてめざすケヤキのいちばん高いこずれにゆれているヤドリ木にたどりつきました。この、どこへいってもいやされない孤独な心がけっきょくゆきつくところは、どの鳥からもきらわれる悪魔の木よりほかにないのです。

トリになった主人公がヤドリギを目指す場面だ。ヤドリギは寄生植物なので、廂(ひさし)を貸すくらいならいいが、母屋を乗っ取るような輩がいると、「悪魔の木」として嫌われる。特にリンゴについたりすると、農家の人にいやがられる。
どの鳥にも嫌われるというのはウソで、ヤドリギの英語名「mistletoe」は「mistle thrush
(ツグミの一種)+枝(toe)」から来ている。ツグミがヤドリギの実をせっせと食べて、ほかの木の上でトイレ休憩をすると子種が枝に付着する仕掛けになっている。
欧州ではヤドリギは縁起物だ。キリスト教以前の古代ケルトにドルイド教があり、カシ(オーク)の巨木を神樹として崇めていた。ヤドリギは樫の木にはめったにつかないが、たまにつくことがあると、神様についた「聖なる存在」として珍重された。
フィールドワークを全くしない文化人類学者として有名なフレーザーは
『金枝篇(Golden Bough)』を著したが、この「金の枝」とはヤドリギのことだ。ヤドリギは刈り取ってからしばらくすると「金色」に変わるものがあり、この名称がつけられたという。クリスマスの飾りとしてもよく使われる。
イギリスの浪漫派の画家ターナーが描いた『金枝』。私が好きな絵の1つだ。ギリシャ神話のいち場面を描いたもので、左下の女性が掲げているのがヤドリギである。
北欧神話ではこのヤドリギが「神の魂」として表現されている。神樹(カシの巨木)についたヤドリギは単なる「聖なるもの」ではなく、「神の本体」「神力の中心」と見なされていた。
古文献の一節に、司祭殺しの儀式でヤドリギが使われたという話がある。「司祭殺し」とは、シャーマンが老害を発する前に死んでもらい、その魂(神のパワー)をピチピチとした肉体をもった次の後継者に移すという儀式だ。後継者は前任者を殺す前に、ヤドリギを折り、その神魂パワーを増幅させた上で「神の代行者」となった。
ヤドリギは地に根を生やさないので「地のもの」ではない。かといって空に飛翔する「天のもの」でもない。シュタイナー医学では、地のエネルギー(アーリマン)と天のエネルギー(ルシファー)の均衡のとれた存在としてヤドリギに注目している。このヤドリギの抽出成分を使った『イスカドール』という医薬品もある。
ここでも気質や形態のアナロジーがあり、乳がんの女性にはリンゴのヤドリギの成分を使い、丈夫な体格を持ちながら内臓の弱っている男性にはカシのヤドリギを使ったりするという。
フレーザー著『図説 金枝篇』(東京書籍)は、ヤドリギの採集の時期について、次のように説明している。(第9章:p370)
- ヤドリギも、シダの種と同じように、聖ヨハネの祝日かクリスマスに−つまり、夏至か冬至に−採取され・・・
- スエーデンの人々は夏至祭の前夜にヤドリギで、宝探しのための占い杖をつくる
- ウェールズでも聖ヨハネの祝日の前夜に採取したヤドリギの小枝を枕の下に入れて寝ると、未来を占う夢を見るとされている
ということで、私も夏至にそなえてヤドリギを探しに行ってきます。枕の下において、いい夢を見たいので・・・。
■注意:
巨木のカシのヤドリギで一攫千金のパワーを狙うのは大いに結構だが、カシの枝はポキッと折れやすいので要注意。神の代行者としてのパワーを顕現する前に、あの世に召されてしまうことがありませぬよう。
posted by ヒロさん at 05:37
|
Comment(14)
|
TrackBack(0)
|
シュタイナー