2008年01月26日

シュタイナーの「二人のイエス」説から何がわかるか

この世には聖書を文字通り信じる人たちがいる。文字通りに細かいことは信じない、でも、終末論、ハルマゲドン、千年王国などの黙示録的解釈は絶対に譲れないという人たちもいる。

新約聖書に書かれた奇跡をどの程度信じられるだろうか。処女懐妊、除霊と癒しのパワー、水上歩行、5000人分のパンの魔術、死人を復活させる術、死後の肉体消滅、文字通りの復活、など。

一般にキリスト教を信仰する人たちは、

  • イエスが人類全体の罪を背負って十字架にかかり、昇天し、のちに復活する
  • キリストは唯一の神の子である(神が人間に降臨した、最初で最後のケース)

    の2つを重視するが、シュタイナー派のキリスト教徒になるためには、さらにもう1つの敷居が用意されている。

    イエスは2人存在した

    ことを信じないといけない。イエスは0人だった、つまり存在しなかったという説は昔からたくさんある。最近ではイギリスにいるデヴィッド・アイクが「イエスはいなかったろう論」を展開している。日本では聖徳太子は存在しなかった、でも聖徳太子伝承・信仰はあるという説があるが、「イエスはいなかった(でも信仰はすばらしい)」というキリスト教徒がこの世に存在するのかどうか。

    ともあれ、シュタイナー派の場合は「イエスは2人いた、でも途中で1人になった」という説だ。この説の基本は、新約聖書の福音書にある「マタイ伝」と「ルカ伝」の記述の食い違いは、2人のイエスがいたことですべて説明できるとするものだ。

    聖誕祭(12月25日)や公現祭(1月6日)にちなんで、キリスト教圏ではイエス様の誕生を祝って、東方の三賢者やら羊飼いやらが登場する劇があちこちで上演されている。

    東方三賢者を記載しているのは「マタイ」で、羊飼いを記述しているのは「ルカ」だ。中世やルネサンスの絵画ではこの2つを厳格に分けて表現している作品もあるが、大方は、細かいことをいうな、どっちも一緒に載せらいいじゃないの、となっている。演劇でも三賢者と羊飼いの両方が登場することが多い。

    細かいことにうるさいシュタイナーはそんな妥協的な態度を許さない。キリスト教徒の人も、そうでない人も、イエス・キリストの秘密にしばし耳を傾けていただきたい

    ■■■■■■十■■■■■■  

    2つの福音書は家系図が露骨に食い違っている。マタイ伝の冒頭には42代の家系図あり、ルカ伝では3:23で84代の家系図がある。シュタイナーによれば、この2つはまったく別のファミリーで、2組の「ヨセフとマリア」とする。話がややこしくなるので、以降、マタイ伝の登場人物をヨセフM、マリアM、イエスM、ルカ伝のほうを、ヨセフL、マリアL、イエスLとする。

    まずベツレヘムで、ソロモンの王族の家系を受け継ぐカップルのもとにイエスMが生まれた。実はこのイエスMはペルシャのゾロアスターの生まれ変わりであり、ゾロアスター教の占星術師(マギ)がいち早く察知してお祝いに現れる。一方この知らせを聞いたヘロデ王は、2才以下の子供を1人残らず皆殺しにすることを決意したが、ヨセフM、マリアMは夢のおつげを受けてイエスMを連れてエジプトに逃れる。

    ヘロド王による大虐殺のあとに、ナザレではナタン系の聖職者の血を引くカップルのもとにイエスLが生まれる。内緒の内緒だが、このイエスLには仏陀のアストラル体が取り巻いており、ほのぼのとした羊飼いがやってきてお祝いする。同じ頃にイエスLの従兄弟にあたるヨハネ(洗礼のヨハネ)も生まれる。ヨハネがイエスMの従兄弟であったならば、ヘロデ王に殺されているはずなので、30年後の洗礼ができないではないか。

    マタイ伝のファミリーは不幸続きだ。父親のヨセフMはイエスMが幼いときに他界。そして不遇のイエスMも12才のときに(原因不明で)急死してしまう。しかしイエスMに宿っているのは超絶ゾロアスターである。このイエスMの肉体をさっさと捨てて、エクソシストの悪魔のようにエイヤーとイエスLに乗り移る

    ここにきて美しい出会いが生まれた。ルカ伝の少年イエスLの中で、ゾロアスターの魂と仏陀のアストラルが合体することになったのだ。イエスLは幼くして超人パワーを発揮し始める。ルカ伝2:41の「神殿での少年イエス」の物語にあるように、お祭りで3日間も行方不明になっていたイエスLが、捜しににきた両親に向かって「どうして私を捜すのか」という意味不明の言葉を返して、両親を驚かせている。ゾロアスターがしゃべっているのだから、無理もない。

    この直後にドラマのごとくマリアLが急死する。奥さんなしで淋しいヨセフLのもとに、夫とイエスMを失った不幸続きのマリアMが、ヤコブ、ヨセフ、ユダ、シモンと2人の娘を引き連れて引っ越し、めでたく同居することになる。2つの家族が合体するのだ。ルカ伝3:23をごらんあれ。「イエスはヨセフの子と思われていた」と書いてあるではないか。

    さて、新しい兄弟と一緒に育ったイエスLは、30才のときに洗礼のヨハネから「水の洗礼」を受ける。古代の洗礼は水中に完全に水没する儀式で、イエスLはこのとき仮死状態に陥る。古代にはエレウシス、ディオニュソス、オルペウス、イシス=オシリスなどの密儀があるので、少しぐらい死んでも大丈夫。ヨハネ伝11:38を見てごらんなさい。死んで4日たったラザロも復活しているではないか。

    つまりイエスLはここで1度死んだのだ。そしてこのときにゾロアスターの魂が抜けて、かつてこの世にただの1度も顕現したことのない「キリスト」という存在がイエスLに入り込んだ

    これ以降は、キリスト教の方々がよく知っているストーリーだ。つまりイエスが「キリスト」だった期間は、30才の洗礼から33才の磔刑にいたるまでの3年間ということになる。

    ■■■■■■十■■■■■■  

    ・・・・と、ここまでの話について来れた人を褒めてあげたい。この話にはさらに伏線がある。12才で急死したイエスMはなんだったのか、かわいそうじゃないか、ゾロアスターさんは最初からイエスLに生まれればいいものを・・・と愚痴りたいところだが、これにも深いわけがある。

    シュタイナーによれば、ゾロアスターが崇めた光の神「アフラ・マズダ」は「キリスト」と同一である。ゾロアスターは何度も生まれ変わっているが、以前生まれたときに、エジプトの祖トト(ヘルメス)とユダヤのモーゼを直弟子にしていた。このときに、トトにはアストラル体のパワーを与え、モーゼにはエーテル体のパワーを与えた。

    モーゼはイスラエルの民をエジプトから脱出させたが、このときに、モーゼに与えたエーテル・パワーとトトに与えたアストラル・パワーが合流。マタイ伝でイエスMのエジプト行きを仕組んだ本当の理由は、イエスMに宿ったゾロアスターがこれらのパワーと再合体するためだった。

    以上の話は、あまりにも複雑だ。キリストを降臨させるために、キッタり、ハッタり、抜けたり、くっついたりであまり美しくない。これに対してシュタイナーは、

    真理を「簡単な」ものにしたいと思うのは、多くの概念を形成したくないという怠慢です。偉大な真理は非常な精神力を以ってのみ考察され得ます。機械を作るのにさえかなりの労力を要するのですから、真理が容易に把握できるものであるべきだと望むのは正しいとはいえません。(シュタイナー『仏陀からキリストへ』p63)

    と言っているが、さて、どうでしょう。

    シュタイナー大学の1年間の基礎コースでは、カリキュラムとして(1%ぐらい)この「2人のイエス論」が入っているわけだが、あまり評判がよろしくない。アフリカからきたキリスト教徒(カトリック)は「この話は人に絶対してはいけない。○○○と思われてしまうから」と、同じ国から来た友人(英国国教会)をたしなめた。

    アジアから来ている非キリスト教徒の場合は、聖書を読んだことがない人がほとんどなので、何がなんだかわからないうちに終わる。で、結論として「キリストを実現するために、ゾロアスターや仏陀やモーゼの力も働いたのね、連係プレーは美しい」というハッピーな認識でごまかすか、いっさい無視して素通りするか、あるいは深く悩みこんでしまうか、いろんなパターンがある。

    私はあまりにたまげたので、ティールームで「たまげた!」と声を上げていると、他の学科のドイツ人が「君は正しい。シュタイナーは間違っている」と話しかけてきた。で、このドイツ人は後で何を勘違いしたのか、自分の通っている教会(たぶんルター系)に入らないか、としつこくさそってきたので、これまた辟易してしまった。

    これを教えた側はどうであろうか。授業は2人の先生が共同で担当したが、60才近い副主任の先生は「なんか、仏教がキリスト教の下敷きで終わったかのような印象を与えるかもしれないけれど、これは仏教の進化がその後止まったという意味ではありませんから・・・」と軽くフォローアップする。本気で信じていない口ぶりだ。

    一方40才ぐらいの主任の先生のほうは、ユダヤ教のことを全然知らないユダヤ人の息子で、シュタイナー信者だ。4つの福音書はキリスト昇天後の五旬祭(使徒言行録2:4)でチャネリング現象が起きたときに、弟子たちが霊的経験が通して記述したというシュタイナー説を信奉している。なので、私がどんなに新約聖書の成立過程を説明して、マルコが古いんですよ、ルカとマタイはコピー&ペーストですよ、ルカと使徒言行録は同じ筆者で、マタイがトップバッターに来ていることや、マルコが一時抹殺されかかったこと、外典(トマス福音書など)がはずされたことなどは、すべて政治的な配慮ですよ、と説明したのだが、理解してもらえなかったようだ。

    ■■■■■■十■■■■■■  

    さて、シュタイナーはどうして「二人のイエス」という複雑な説を考えた(あるいは霊視した?)のか。その答えは以下の3点にあると私は考える。

    1) 薔薇十字団(Rosicrucian)の影響。キリスト教神秘主義の大きな流れは、この薔薇十字団が担っているが、ごく単純化して公式を示すと「薔薇十字=ヘルメス+カバラ」だ。ヘルメスはエジプト神秘思想で錬金術につらなり、一方のカバラはユダヤ神秘思想。両方ともにゾロアスター教から強烈な影響を受けている。

    2) 神智学(Theosophy)からの影響。シュタイナーは1902年から1912年までブラヴァツキーが創設した神智学のドイツ支部長を務めている。ブラヴァツキーは植民地主義に真っ向から反対し、仏教徒に改宗しインドから霊性主義を展開し、ドイツ霊性主義と合流した。

    3) 社会進化論(社会ダーウィン主義)からの影響。シュタイナーは「個体発生は系統発生を繰り返す」のヘルンスト・ヘッケル(Ernst Haeckel)を絶大に評価。このアイデアを宗教進化論と霊性進化論に適用し、ゾロアスター、仏教、ユダヤ教をキリスト教に進化合体させる着想を得た。

    これに加えて、アーリア人優位説も1枚かんでいる。これらについては、いずれ別エントリーで個別に考察してみたい。
  • posted by ヒロさん at 00:50 | Comment(16) | TrackBack(0) | シュタイナー

    2008年01月21日

    オリンポスの神々とギリシャ神話に触れながら、内なる声を聴く

    久しぶりにロンドンの大英博物館に出掛け、古代ギリシャの彫刻を眺めてきた。動物あり、半人半獣あり、一見したところ人間のようだが、神々のストーリーが描かれていたりするので、ギリシャ神話の素養があるとさらに面白い。

    現代人にとってギリシャ神話とは何であろうか。創生神話としてのガイアやカオス、プロメテウスの火、パンドラの箱、エディプス・コンプレックス、王様の耳はロバの耳、アキレス腱、イカロスの翼、モルヒネ、サイレン、エコー(木霊)に加え、笛好きにはアウロスにシューリンクス、女好きにはゼウス、アポローン、ディオニュソスの助平話、映画好きには『黒いオルフェ』(オルペウスとエウリュディケ)、投資家には地獄の番犬ケルベロス(サーベイラス)はいかがだろうか。

    国際政治謀略を研究する人には、地球を支えているのは俺様だ、俺が肩をすくめたらどうなるか、というタイタン族のアトラス(=国際金融財閥)や、そのアトラスの7人娘セブンシスターズ(=国際石油財閥)の神話はぜひとも押さえておきたい。

    ギリシャ神話の神々の系譜は、広瀬隆の『赤い盾』(ロスチャイルドの系譜)に匹敵するような怪奇面妖さがある。とりあえず、パルテノン神殿にも飾られるオリンポス12神を私なりに並べてみる。

  • 男ゼウス(総理大臣)、女ヘラ(女性生活大臣)
  • 男ポセイドン(水産大臣)、女デメテル(農業大臣)
  • 女アテナ(都市大臣)、男ヘパイストス(工業大臣)
  • 男アポロン(教育娯楽大臣)、女アルテミス(狩猟大臣)
  • 男アレス(国防大臣)、男ヘルメス(官房長官)
  • 男デュオニュソス(酔っ払い演劇大臣)、女アプロディテ(芸術恋愛大臣)


  • 最初の4神(ゼウス、ヘラ、ポセイドン、デメテル)はすべて兄弟姉妹。ゼウスとヘラは近親相姦の正式な夫婦。デメテルは前の前の前の奥さん。

    「男」「女」の符号がついているとはいえ、神々は両性具有でもある。3行目のアテナはゼウスが勝手に1人で生んだ娘だが、これ対して正妻ヘラも、それじゃ私も勝手にやらせていただきます、と息子パイストス(鍛冶の神)を1人で生んでいる。

    4行目のアポロンとアルテミスはゼウスの子供だが、母親は正妻のヘラではなく、前妻(愛人)のレト。「レト」は小アジアの女神「ラダ」の変形で、ゼウスが白鳥に化けて交わった「レダ」と同一と思われる。ゼウスが化けたという話はたぶん後付けで、「レト」「ラダ」「レダ」は女神であると同時に、首の長いトリ(男性的シンボル)を備えた両性具有神の伝承の名残だろうか。旧約聖書のアダムの前妻リリトは鳥(バビロニア神話ではフクロウ)のように飛んで家出したが、ゼウスの前妻「レト=ラダ=レダ」にも白鳥神話があることは興味深い。

    正妻との子供は武神アレスのみ。秘書官ヘルメス(ゼウスの鞄持ち)はセブンシスターの1人マイアと浮気してできた子だし、ディオニュソスはなんと人間と交わってできた子だし、アフロディテにいたっては、ゼウスが父親ウラノスの陽根をエイヤーと切り落としたときに泡から生まれたクローン娘だ。神話は事実よりも奇なり。

    オリンポス12神はペロポネソス半島の神話に、クレタ、ミノア、小アジアの神話を融合させて登場した新作劇といえる。古代の神話は「大地母神+植物神(童子神)」の関係で整理するとわかりやすい。

  • クレタの大地母神レイア + ゼウス
  • 小アジアの大地母神アルテミス + アポロンまたはヒュアキントス
  • 小アジアの穀物神デメテル + ディオニュソス
  • 東方セム系の大女神アプロディテ + アドニス


  • 誕生日が近づいている人は、丸くて甘い誕生ケーキの起源が、月の神アルテミスに捧げた「ハチミツ入りの丸いパン」にあり、月光を象徴するようにロウソクを突き刺していたことを思い浮かべ、古代に思いを馳せましょう。

    いまお酒を飲みながら読んでいる人は、お酒の神様ディオニュソスのお祭りが世界中にあることを調べながら、頬を紅潮させましょう。ローマでは「バッカス」という神に翻訳されてしまったが、これは本地垂迹に似たトリックなので、お気をつけあそばせ。

    また、ゼウスの正妻ヘラは牛をトーテムとする女神であり、ギリシャ勢力の拡大とともにクレタ島で盛んだった牛神信仰にゼウスが“婿入り”したのが真相だろう。「牛を殺すミトラ」で知られる太陽信仰ミトラ教の影響もあったに違いない。

    オリンポス神話とはジャンルの異なる伝説になるが、トロイア戦争(BC1200年頃)直後の伝承を描いたホメロスの『オデュッセイア』(知将オデュッセウスの帰還の物語)は宮崎アニメファンなら必読だ。なにしろ、風の谷のナウシカが出てくるのだから。トロイの木馬で知られるトロイヤ戦争を紐解きたい人は、手塚治の『火の鳥』もお勧めだ。

    シュリーマンによる発掘で伝説から歴史書になってしまったトロイヤ戦記だが、これを単純に現代風に読んでしまうと、古代人の意識や精神を読み違えてしまう。ジュリアン・ジェインズ(Julian Jaynes)の『The Origin of Consciousness in the Breakdown of the Bicameral Mind』では、トロイア戦争にまつわるホメロスのもう1つの伝説『イーリアス』を資料に使い、霊や神々の声を聴いてしまう古代人の自我意識と左右の脳機能ついて説明しようとしている。

    内田樹の研究室:「神々の声」(2008/1/16)
    ジェインズが資料に使うのはホメロスの『イーリアス』である。この古典には「意識」とか「意志」とか「精神」とかいう語が存在しない。ジェインズによると、それは「『イーリアス』に出てくる人々は自らの意思がなく、何よりも自由意思という概念そのものがない」(94)からである。古代ギリシャというのは「意識」という概念がない世界なのではないかとジェインズは推論する。

    ジェインズの仮説は、この「自己同一的な私」というものが人類史に出現してきたのは、私たちが想像するよりはるかに近年になってからであろうというものである。「自己同一的な私」が登場する以前には、「それまでの人生で積み重ねてきた訓戒的な知恵をもとに、何をすべきかを告げる」機能は「神々」が果たしていた。だから、その時代の人々は、何か非日常的な事件に遭遇して、緊急な判断を要するとき、「神々」の声がどうすべきかを「非意識的に告げるのを」待ったのである。(111)これは現代の統合失調症患者の聴く「幻聴」にきわめて近い。患者たちはそれを「神、天使、悪魔」のようなものが発しているのだと感じている。

    ジュリアン・ジェインズはたいへん刺激的な思想家であるが、私が個人的にいちばん面白いなと思ったのは、「自我」の起源的形態が「神々」だというアイディアである。私はこの考想はきわめて生産的なものだと思う。だから、「自分探し」が「聖杯探し」とまったく同一の神話的構造をもっているのも当然なのである(地の果てまで行ってもやっぱり聖杯はみつからないという結論まで含めて)。

    ロンドンの大英博物館で以上のような薀蓄を垂れていた私だが、帰りぎわに友人が「今日見たパルテノン神殿の彫刻って、なんでイギリスにあるの?」とつぶやいた。「そりゃ、イギリスのいつもの得意技で、盗んできたにきまってるでしょ」と答えた私だが、これは濡れ衣のようなのでプロメテウスの火で乾かしたい。

    中東やアフリカ諸国と違って、イギリスはギリシャを植民地にしたわけではない。パルテノン神殿をめぐる歴史は以下のようなものだ。

  • 中世のパルテノンは、東方教会の「教会」となって、鐘楼と礼拝堂が追加された。
  • 1458年、トルコに占領されてパルテノンは「モスク」となり、ミナレット(塔)がそびえ立った。
  • 1687年、イタリアのベネチア軍がトルコ勢力を包囲し、大砲でパルテノンを破壊。
  • 1776年、トルコは中央の瓦礫を片付け、新たなモスクを建設。
  • 1801年、イギリスの駐トルコ外交官エルギン伯爵(Earl Elgin)が、トルコの許可を得てパルテノンの彫刻を収集。
  • 1816年、エルギン伯爵はこのコレクションを35000ポンドで大英博物館に売る。


  • ということで、盗んできたわけではないものの、ギリシャ人からは「泥棒、返せ〜」という声が上がっているとか、いないとか。

    ■おまけ話:
    イギリスのギリシャ熱事情。イギリスで子供につける名前は聖書系が圧倒的に多いが、女の子の場合はしゃれた名前がはやっており、近年の上位10傑にはギリシャ系の「Chloe(クローイー)」と「Sophie(ソフィー)」が登場している。日本でいえば「若菜」と「智子」。
    posted by ヒロさん at 08:32 | Comment(6) | TrackBack(0) | 神話・宗教・民俗学

    2008年01月18日

    日本マンガと日本食で、クリエーティブ・ジャパン!

    昨年の暮れから、私がよく行く隣町の図書館に日本マンガコーナーが登場した。小説セクションの一角にマンガがぎっしり並んでいたので驚いたが、手に取ってみるとすべて日本のコミックの英訳だったので、もう1度驚いた。巻数の多そうなものから列挙すると、

  • Ruroni Kenshin (Nobuhiro Watsuki)
  • Battle Royale (Koushun Takami & Masayuki Taguchi)
  • Fake (Sanami Matoh)
  • Immortal Rain (Kaori Ozaki)
  • Tramps Like Us (Yayoi Ogawa)
  • Gravitation (Maki Murakami)
  • Get Backers (Rando Ayamine, Yuya Aoki)
  • Crying Freeman (Kazuo Koike, Ryoichi Ikegami)
  • Vision of Escaflowne (Katsu Aki)
  • Warriors of Tao (Shinya Kuwahara)

  • となっている。よくあることだが、どれもこれも第1巻目が貸出中になっていた。チラチラめくってみると、かなりアダルトな作品があってまたまた驚いた。

    ロンドンの日本大使館は2006年に、現代日本文化を紹介する「Creative Japan」という小冊子を発行したが、この中のアニメセクションでは、以下のマンガを写真付きで紹介していた。

  • Dragon Ball (Akira Toriyama)
  • Ranma 1/2 (Rumiko Takahashi)
  • Akira (Katsuhiro Otomo)
  • Monster (Naoki Urasawa)

  • 文学、アート、デザイン、建築、フードの分野でも“有名日本人”を取り上げている。さて、日本のみなさんが納得する選出になっているかどうか。(アニメとゲームは省略)

    ■文学
  • Haruki Murakami・・・著作多数
  • Miyuki Miyabe・・・『Copycat』
  • Yoko Ogawa・・・『Professor's Favourite Formula』
  • Natsuo Kirino・・・『Out』

  • ■アート
  • Takashi Murakami
  • Yoshitomo Nara
  • Hiroshi Sugimoto
  • Hiroshi Senju

  • ■デザイン
  • Naoto Fukusawa
  • Kanae Tsukamoto
  • Tokujin Yoshioka
  • Naoko Hirota

  • ■建築
  • Toyo Ito
  • Tadao Ando
  • Shigeru Ban
  • Kazuyo Sejima + Ryue Nishizawa
  • Jun Aoki

  • ■フード(日本食)
  • Harumi Kurihara
  • Kunio Tokuoka
  • Nobu Matsuhisa

  • 日本食といえば、先日、隣町の「Wagamama」という日本食ファミレスに入ってみたが、とても盛況。50人あまりの客に東洋人は見当たらないが、みな上手に箸を使って食べていた。私は和風ラーメンと餃子にした。餃子は小指ぐらいの大きさのやつが1皿に5つだけで、ちょいと淋しい。

    ラーメンのどんぶりはデザインのきれいなプラスチック製で、これほしいな〜と思ったら、ちゃんと売り物になっていて、20ポンド(4300円)。これを家族用に5つ買うと21500円なので、やめにした。

    「umami」という単語も日本食ファンのあいだで定着しつつある。なぜかsweet、salty、sour、bitterと併記され、形容詞的に使われていたりする。日本食は長寿の元だというので「海草やさかなを食べると頭がよく〜なる〜」というコラムを新聞で見かける。とりわけ必須脂肪酸「オメガー3」が注目されており、わが家でもこれを大量に含むというシャケ(鮭)とクルミをたくさん食べることに決定した。
    posted by ヒロさん at 20:37 | Comment(2) | TrackBack(0) | イギリス見聞録

    2008年01月16日

    天空の城ラピュタの崩壊後は、観音さまでお口直し

    冬休み中に親子で宮崎アニメ『天空の城ラピュタ』を鑑賞した。きっかけは数週間下宿していたフランス人が『ラピュタ』を見て偉く感動したというので、わが家でも懐かしさあまってDVDをアマゾンから購入することになった。

    フランスでは2002年にアカデミー賞受賞作の『千と千尋』がブレークしたあと、翌年2003年に配給した『ラピュタ』も大ヒットとなったという。私としては第2弾の投入作として『もののけ』や『魔女の宅急便』を予想していたので、『ラピュタ』と聞いて意外だった。というのも、主人公の少女シータが唱える呪文がヘブライ語かアラム語であり、ユダヤ色のある作品は欧州では無理だろう、と勘違いしていたためだ。

  • 「リテ・ラトバリタ・ウルス・アリアロス・バル・ネリトール」・・・・ロボットが動き出すときの呪文
  • 「シス・テアル・リーフェリン」・・・・ラピュタへの道を開くための呪文
  • 「バルス」・・・・ラピュタ崩壊の呪文

    最後の崩壊のパスワードがあまりにも短すぎる。せめて英数字12文字ぐらいで、生年月日や「ペットの名前は?」という質問と組み合わせるぐらいでないと、危険この上ない。

    それはさておき、この呪文はラテン語のような響きもあるが、まったくのでたらめなのか。ラピュタ語の文字には楔形文字が使用されているので、「目には目を」のハンムラビ法典に出てくるようなアッカド語系であろうか。あるいはゲール語などのケルト語系を使ったものであろうか。

    人名ではスペイン語が少し気になった。ラピュタ王国のもう1人の末裔である特務機関のムスカ大佐だが、この名前をスペイン語読むと「ハエ」の意味となって権威が少し落ちる。盗賊ドーラたちが飛ばすフラップターという「ハエ」のような飛行機と重なり合ってくる。

    ラピュタ自体がスペイン語では「La Puta」つまり「ザ・売春婦」となって、痛烈な皮肉の産物だ。ラピュタを考案したのは、アイルランドの作家スウィフトによる『ガリバー旅行記』で、小人の国、巨人の国に続く第三部が空飛ぶ島国ラピュタの話になっている。

    ガリバーは太平洋上にあるラピュタを訪れたあと、まぼろしの国ジャパンにも立ち寄っている。1709年のことだ。地名に若干の難点があり「Nangasac」はNagasaki(長崎)とわかるが、日本に上陸した「Xamoschi」とはどこのことか。

    ◆『Gulliver's Travel』:第三部 11章 (ネットソース
    We landed at a small port-town called Xamoschi, situated on the south-east part of Japan; the town lies on the western point, where there is a narrow strait leading northward into along arm of the sea, upon the north-west part of which, Yedo, the metropolis, stands.

    英書の注釈には「Xamoschi」=Shimonoseki(下関)と出ているが、「narrow strait」を関門海峡と思い込んだ早とちりだろう。東京湾にいたる海峡が浦賀水道で、その西側のポイントが三浦半島・横須賀と解釈すると、「Xamoschi」はザモスキという発音に近いKannonzaki(観音崎)となる。

    ということで、来年2009年は「ガリバー上陸300周年」なので、観音崎では町おこしイベントとしてガリバーを大いに担ぎ上げている。横須賀方面に行かれる方は、海軍カレーを食べた後に、ゴジラが上陸、じゃなくてガリバーが上陸した観音崎にどうぞ。

    1726年に出版された『ガリバー旅行記』になぜ日本が入っているかということだが、イギリス人として初めて日本に上陸した三浦按針(William Adams)がモデルだ。「三浦」は三浦半島で、「針」は羅針盤、「按針」で水先案内人。小説・映画『Shogun』もこのイギリス人が見た徳川幕府の物語になっている。ちなみにこの小説には日本語の会話がたくさん出てくるが、メチャメチャな日本語が使われており、がっかりする。(呆れた私は、先日廃棄処分を決定した)

    日本語といえば、DVD『ラピュタ』は子供の日本語教育を兼ねて買ったつもりだったのだが、届いたのは英語オンリーの吹き替え版だった。日本のアニメの少年キャラクターはほとんどすべて女性の声優を使っているが、英語吹き替え版の少年パズー(Pazu)は重厚な男性の声だった。これもまたよし。

    念のためにパズーの声優を確認すると、オリジナル日本語版では田中真弓。英語版ではJames Van der Beek。

    ■おまけ:
    欧州大陸ではナチス&ユダヤ問題に神経質なところがある。日本アニメのフランス進出は1978年の『UFOロボ グレンダイザー(仏題:ゴールドラック)』を皮切りに爆発的な人気を集めたが、1990年に投入された『キン肉マン』では、キャラクターのブロッケンジュニアがナチスをモチーフにしていたため放送停止となってしまった。
  • posted by ヒロさん at 08:57 | Comment(3) | TrackBack(0) | 映画・ドラマ・アニメ

    2008年01月11日

    民主党・藤田議員(参議院)、911疑惑について国会質問

    コメントで教えていただいたので、紹介のみ。

    www.youtube.com/watch?v=VtvulJId4sI(9分)

    1月10日、海上自衛隊によるインド洋補給活動再開を目指す「新テロ対策特別措置法案」の国会審議(参議院外交防衛委員会)において、民主党の藤田幸久参院議員が911テロの真相究明を求める質問を行い、その模様はNHKでも放映された。

    藤田議員は茨城出身で、「民主党・新緑風会・日本」に所属。パネル写真を使いながら911疑惑を次々と取り上げ、「アメリカの間接情報をもとにアルカイダの犯行と断定し、テロとの戦いに参加していいのか」と、石破防衛大臣や福田首相などに質問した。

    彼は「ブラックボックス情報はほとんど出てきていない」と言って、「ない」を強調しているように思えるが、『Pilots for 911 Truth』というパイロットグループの地道な活動によって、ペンタゴンに激突したとされる「AA77便」に関しては、フライトデータ・レコーダーは公開されている。その結果、政府発表の突入ルートとまったく一致していないことが明らかになっている。

    ともあれ、日本テレビ放映の「ツインタワー崩壊の疑惑を追え」に続く、日本での大きなステップといえる。
    posted by ヒロさん at 21:07 | Comment(25) | TrackBack(0) | 911真相究明
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