淡々とした語り口調でアメリカ映画史を俯瞰する本。新書ながら、100年の歴史がぎっしりと詰まっている。
「キネトグラフ」は撮影機、
「キネトスコープ」は覗き箱方式の小さな映画館で、いずれもエジソンの発明だ。19世紀末に発明されたこの装置が映し出したものは、レスリングやボクシング、異国の舞い、曲芸などだった。
20世紀に入ると
ニッケルオデオンと呼ばれる入場料5セント(nickel)の簡易映画館が登場。見せ物小屋よろしく、「裸のブランコショー」や「パジャマガール」といったエロ・グロ系、さらに米西戦争(1898年)ものなどが上映されていた。
エジソン社の元映写技師のエドウィン・ポーターが、「アンクル・トムの小屋(1902)」「アメリカ消防士の生活(1902)」「大列車強盗(1903)」などを発表。強調したい場面は、A−B−A−Bのような形式で同じ映像が繰り返し使われた。
■10年代
当初、フランスとイタリアが映画界をリードしていたが、第一次世界大戦の混乱でアメリカがトップに躍進し、世界上映映画の80%を供給。
ハリウッドの父グリフィスが制作過程を合理化し、大量生産方式で1908−13年に500本近い作品を制作した。監督、カメラ、脚本、照明、舞台セットなどの分業が始まり、演技空間を手前から奥に続ける「ディープスペース」や左右にカメラワークを広げる「パン撮影」が導入された。
この時期のスター俳優は、
Mary Pickford、Florence Lawrence、
Lillian Gish、Charles Chaplin、
Douglas Fairbanks。
■20年代
禁酒法の影響で、ダンスや映画の人気が上昇。10年代に
制作の系列化が進んだが、20年代は配給の系列化の時代。大恐慌を経て、配給会社はビッグ5(パラマウント、MGM、20世紀フォックス、ワーナーブラザーズ、
RKO)とリトル3(ユニバーサル、コロンビア、ユナイテッド・アーチスト)に集約。1927年にワーナー配給の「ジャズ・シンガー」が映画館で音を出すことに成功し、
トーキーの幕開けとなる。
代表的な映画はChaplinの「キッド(1921)」「黄金狂時代(1925)」や、Greta Garbo主演の「肉体の悪魔(1926)」など。
■30年代
スクリューボール・コメディ、ミュージカル、ギャング、ホラーといった
ジャンルものが発展。Clark Gable、Gary Cooper、James Stuart、Henry Fonda、Cary Grantらが、ポピュリズムの騎手として映画界に君臨。
チャップリンの「街の灯(1931)」「モダンタイムズ(1936)」、セルズニックの「アンナ・カレーリナ(1935)」「孤児ダビド物語(1935)」、サルバーグの「ロミオとジュリエット(1936)」「椿姫(1937)」が人気。1936年にノーベル賞作家シンクレア・ルイスの「孔雀夫人 Godsworth」が作品化。1939年は豊穣の年となり、「オズの魔法使い」「嵐が丘」「風と共に去りぬ」「ニノチカ」「駅馬車」で賑わう。
■40年代
巨匠ヒッチコックが「レベッカ(1940)」を皮切りに次々と作品を発表。オーソン・ウェルズは新聞王ウィリアム・ハーストを題材にした「市民ケーン(1941)」で物議を醸す。
戦禍のメロドラマ「カサブランカ(1942)」が人気を呼び、
西部劇ではジョン・フォードの三部作「アパッチ砦(1948)」「黄色いリボン(1949)」「リオ・グランデ砦(1950)」が完成。この時代の大スターは、Humphrey Bogard、Ingrid Bergman、Joan Fontaine。
ダシール・ハメット、ジェイムズ・ケイト、レイモンド・チャンドラーなどの犯罪小説をベースにした
フィルム・ノワールが登場。「マルタの鷹(1941)」「深夜の告白(1944)」「欲望の果て(1944)」「飾り窓の女(1944)」「三つ数えろ(1946)」などで、過去を振り返るフラッシュバックや感情表現的なボイスオーバーが多用される。
■50年代
制作現場は垂直統合型から
プロジェクト型に移行し、プロデューサーは単なるコーディネーターに。シネマスコープ技術によって巨大な
ワイドスクリーンやドライブイン・シアターが登場。独禁法の適用とマッカーシズムの緩和により、自由と多様化の風が吹き、セックスや暴力で“ギリギリ”に迫る
キワモノ映画(exploitation film)が徐々に浸透。
西部劇のフォードが「探索者(1956)」で心理劇を展開、スリラーのヒッチコックは「めまい(1958)」「サイコ(1960)」で精神分析的手法を使用。ミュージカルでは「スタア誕生(1954)」、SFでは「月世界征服(1950)」「宇宙戦争(1953)」。本書では、ニコラス・レイのメロドラマ「心のともしび(1954)」「天はすべてを許し給う(1955)」「風と共に散る(1956)」を傑作中の傑作と絶賛している。
3大女優は、「真昼の決闘(1952)」のGrace Kelly、「ローマの休日(1953)」のAudrey Hepburn、「ノックは無用(1952)」のMarilyn Monroe。3大男優は「欲望という名の電車(1951)」のMarlon Brando、「理由なき反抗(1955)」のJames Dean、「やさしく愛して(1956)」のElvis Presleyか。
■60年代
商業主義と文化創造の2大ベクトルの激突がある。前者はスペクタクル映画と呼ばれる大作で、「十戒(1956)」や「ベンハー(1959)」の流れを受け、「アラビアのロレンス(1962)」「クレオパトラ(1963)」に発展。後者は“アメリカン・ニュー・シネマ”と呼ばれるジャンルで、「卒業(1967)」「俺たちに明日はない(1967)」「2001年宇宙の旅(1968)」など。
ミュージカルでは「ウェストサイド物語(1961)」「マイフェアレディ(1964)」「サウンドオブミュージック(1965)」が隆盛。独立系は、公民権運動、黒人解放、女性解放、ベトナム反戦などをテーマに。
■70年代
内容の倫理度をあらかじめ表示する
レーティングシステム(G=一般、M=成人、R=16才以下保護者同伴、X=16才以下入場禁止など)が導入。作品の提供やマーケティングなど、
テレビとの連動性が強まる。
監督別では、スピルバーグの「ジョーズ(1975)」「未知との遭遇(1977)」、ルーカスの「スターウォーズ(1977)」、フランシス・コッポラーの「パットン大戦車団(1970)」「ゴッドファーザー(1972)」、マーティン・スコセッシの「タクシー・ドライバー(1976)」「ニューヨーク・ニュヨーク(1977)」、ウィディ・アレンの「アニー・ホール(1977)」がヒット。
郷愁ジャンルには「スティング(1973)」「アメリカン・グラフィティ(1973)」、陰謀ジャンルには「チャイナタウン(1974)」「狼たちの午後(1975)」「大統領の陰謀(1976)」がお目見え。超常能力のある謎の子供たちが「エクソシスト(1973)」「キャリー(1976)」「オーメン(1976)」で登場。パニック映画では「ポセイドン・アドベンチャー(1972)」「タワーリング・インフェルノ(1974)」が人気。
■80年代
配給会社は
6大コングロマリット(マードック、ヴィアコム、シーグラム、ソニー、タイム・ワーナー、ディズニー)に集約され、大作主義が継続。スピルバーグの「レイダーズ・失われたアーク(1981)」、ルーカスの「スター・ウォーズ 帝国の逆襲(1980)」「スター・ウォーズ ジェダイの復讐(1983)」、ジェームズ・キャメロンの「ターミネーター(1984)」「エイリアン2(1986)」、オリバー・ストーンの「プラトーン(1986)」「ウォール街(1987)」「7月4日に生まれて(1989)」など。
「エレファントマン(1980)」や「ブレードランナー(1982)」のような新作家主義も注目株。黒人監督スパイク・リーが「スクール・デイズ(1988)」で台頭。女性監督ではマーサ・クーリッジの「アップタウン・ガール(1983)」、スーザン・シーデルマンの「マドンナのスーザンを探して(1985)」など。
80年代のスターは、Sylvester Stallone、Arnold Schwarzenegger、Sigourney Weaver、Jodie Foster、Michel Pfeifferでよろしいか?。
90年代はみなさんご存じなので省略。お疲れさまでした。