食欲の秋に断食のお話。
私の本格的な断食体験は、高校2年の7月のことだった。
ヨガの本2冊(飯島貫實、藤本憲幸)を参考書にして、1週間をメドに始めたが、結局10日間まで延長することになった。真夏の暑い盛りに、学校に通いながら、放課後はアルバイトもしながら、さらにバスケットボールの学級対校に出場しながらの断食だ。
断食すれば宿便が取れる
という記述を信じてのいきなりの長期断食だ。「宿便は万病のもと」ということなので、視力低下、副鼻腔炎、毛嚢炎、中耳炎、耳鳴りがよくなることを期待し、さらに藤本憲幸の本に煽られて、記憶力が上がり、睡眠が短くなるかもしれない、と夢見ることになった。
徐々に食事量を減らす導入期が3日間で、断食開始後の2〜3日は
オレンジジュースと水だけだった。学校の休み時間に水をガブカブと飲んでいたのを覚えている。4日目以降は親がとても心配したので、塩味の
野菜入りクラッカーを夕方に食べることで妥協することにした。
お腹が空くというよりも、体がだるい。新聞の夕刊を配るアルバイトをしていたが、太ももがとくにだるくて、いつものように走る元気がない。が、精神はそこそこ安定していて、勉強にも支障はなかったので、7日目になったときに「行くところまで行ってみるか」という妙な自信で続けることにした。
ただ不安材料がひとつあった。断食8日目から全学年・全クラス対抗のバスケットボール大会が始まっており、私はクラスの威信をかけてエースとして出場することが決まっている。真夏の暑い盛りに、全力疾走を要求されるスポーツイベントに出ても大丈夫だろうか。心臓がどうなっちゃうんだろう。少々不安になった私は、
チューブ容器(500ml)のハチミツを買って、これを昼食の代わりに食べることにした。
バスケットの学級対校は断食9日目の2回戦まで進んだ。試合中は心臓の鼓動が
ドッキンドッキンと本当に聞こえるほど大きく高鳴っていたが、倒れることもなく、それなりに走れた自分に妙に感心していたのを覚えている。人間は10日ぐらい食べなくても死なないどころか、普通に生活できる。たぶん1カ月ぐらい大丈夫なんだろう・・・という生命力の神秘に賞賛を送りたいような気持ちだった。(自信に満ちあふれる17才の私)
が、そのあとがいけない。1週間以上の断食を続けたら、それと
同じ日数をかけて、食事量を少しずつ増やしながら復食せよとヨガの本には書いてある。1日目はおそるおそるのお粥だったが、2日目以降は親がどんどん食べろと奨めることに加え、学校の帰り道にあるベーカリーの菓子パンが、あれも、これも、こっちも・・・と食べたく食べたくてしょうがない。ついに歯止めがきかなくなり、その後は猛烈な食欲が大爆発!
何よりもつらかったのは、その後の凄まじい超絶便秘。断食後の腸は大量の食べものをすぐには受け付けないが、水分吸収力はもの凄い。その結果、トイレに1時間もこもるような格闘の始まり。ほんとうに死ぬ思いをしました・・・。(ああ、かわいそうな17才の私)
なぜこんなことを書いているのかというと、数日前に
NHKラジオ第1の深夜便:ミッドナイトトークの録音CD数枚を図書館から借りてきたが、うち1枚は
「甲田光雄:からだの不思議」だったからだ。
この先生は2009年8月に83才でお亡くなりになったが、西式健康法を継承する断食・少食療法で有名なお方。
青汁1杯だけで生きている奇跡の人:森美智代も、彼から食事療法の指導を受けていた。
CDを聴きながら、おやっ、と思ったのは、
宿便は腸内のどこにあるのか
という話。長年美食を続けるほどに宿便がどんどんたまっていく・・・という怖い記述をヨガの本で読んでいた私は、高齢者を開腹したら、ヘドロのようにすごいことになっているのかな、と想像する高校生だった。
- 腸の壁、とくに急カーブしているところにベッタリと張りついている
- 腸の突起絨毛の間に細かいカスになって、張りついている
みたいに考えていたが、腸壁細胞は3日で剥がれて生まれ変わるという。コンクリートの壁や便器とはわけが違う。ベッタリと張りついていたとしたら、腸細胞が壊死してしまう。
甲田先生の息子さんも医者をやっており、ある日息子から突っ込みの質問が入った。オヤジは宿便、宿便っていっているけど、医学的にどのような形でどこに存在するんだ、と聞かれて困ってしまった甲田先生は、
宿便とは渋滞便のことである
と表現の変更を迫られることになる。過食をしていると、頻繁に交通渋滞が起こり、腸が部分的に膨らんで目的地にゴールインしない便が出てくる、という説明だ。たとえとしては、高速道路の路肩でエンストしている車とか、サービスエリアで食いまくって居眠りしていて、いっこうに走り出さない車とか。交通量の多い道のガードレールも排ガスで汚れやすいので、腸の交通量が多いと汚れやすいし、掃除も行き届かないというイメージでいいのだろうか。
だが、
断食した後も便が出る、とくにタール系の黒い便が出る、これが宿便である、という話にはさすがにもう騙されない。ごくおおざっぱに言って、出てくる便の3分の1は食べカス、さらに3分の1は腸内細菌の死骸、残りの3分の1は腸細胞や体の老廃物(赤血球など)なので、食べなくてもいろいろ出てくるわけなのだ。時間のある人は
この記事のコメント欄も読んでみて。
その昔「長年の宿便が・・・」という脅し文句に騙された私だけれど、たとえ短期間であっても、渋滞したり、居眠りしたりで、なかなか目的地に着かないトラックの運ちゃんがいっぱいいるのは、どう考えても体によくない。このような渋滞便も問題だけれど、さらに体からなかなか出ていかない
渋滞脂肪のほうも、なんとかしましょうよ。
■追加:
長期断食をして、復食でいきなりラーメンを食べて腸捻転で命を落とした人もいるので、食べ始めにはくれぐれもお気をつけて。