クスノキは西日本に生息する樹木なので、北日本で生まれた私の関心にヒットすることは今までなかった。
楠正成、南方熊楠は知っているが、とくに神木たるクスノキのパワーを感じたことはない。
でも、待てよ。大阪府枚方市に
樟葉(くずは)という地名があるではないか。昨年、中高年ピアニストの会で練習発表会を開いたが、場所は樟葉の喫茶店だった。枚方の樟葉は、『古事記』や『太平記』にも登場する由緒ある地名なのだ。
クスの漢字は
「樟」と「楠」の2通りがある。もともとは「樟=クスノキ」、「楠=タブ、イヌグス」だったが、時代が下るにしたがって「楠=クスノキ」に転用されるようになった。「章」は大きな木材を意味し、クスノキは横に広がる大樹になるが、褶曲が激しいため、長い棒材は採れにくい。
宮島・厳島神社の大鳥居に使われているようなクスノキ材は、とても珍しい。
クスの語源は、奇しき(くすしき)とされているので、クスには魔除けのパワーがある。小学校の運動会で
くす玉割りはまだやっているのだろうか。薬玉は、ジャコウ(鹿から取る香料)やジンコウ(ジンチョウゲの香料)などを入れ、端午の節句で使われた邪気払いツール。
クス=奇しき=薬は、同じ語源のようだ。(ちなみに、紀ノ国は「クスノキなどの木がたくさん生い繁る国」のこと)
クスノキの樹皮を蒸留して生成するのが樟脳。日本は高湿度で害虫が多いにもかかわらず、衣装の保管状態が比較的よかった理由は、
防虫剤としての樟脳が大量に生産されていたことによる。戦後はナフタリンに駆逐されていくが、1903年(明治36)から1962年(昭37)までの
58年間、樟脳は国家統制の専売品だった。
樟脳を原料とする化学物質は
セルロイド。日本では1908年にセルロイド工場が建てられ、第一次大戦中に世界需要が一気に拡大する。1937年における
日本の市場シェアは42%で世界トップ。フィルムを筆頭に、ピンポン玉やキューピー人形にも使われていた。お母さん、あのセルロイドの下敷きや石けん箱はどこに行ったんでしょうね・・・。
その昔、マスコミでも
「日本経済にカンフル注射」といった表現が使われていた。樟脳は英語で「camphor(キャンファー)」だが、オランダ語で「カンフル」となり、強心剤、気付け薬としても活躍していた。語源はアラビア語で「kaful」、マレー語で「kapur」。もともとは
サンスクリットの「karpura(カルプーラ)」で純白を意味する。
最近私が
美容のために食べ始めたアボガドは、
クスノキ科ワニナシ属。アボガドの皮がワニと似ているので、ワニナシ科(alligator pear)と分類されたそうな。クスノキは魔除けの効果があるので、体内の活性酸素もはじき飛ばしてくれるのだろうか。
樟脳は水をはじくので、
樟脳船という水遊びもあるというが、私は一度もやったことがない。誰かこれで遊んだ方、おられます?
posted by ヒロさん at 14:04
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○○の歴史・文化史