9月初旬にピアノ発表会に出場してみたが、主宰者の先生のコメントは「これからも『ピアノがだいすき〜』という気持ちを忘れずに、基本に戻って頑張ってほしい」とのことだった。
「基本に戻る」とは、バッハとツェルニーをもっとしっかりやれとのご訓辞のようであるが、そもそも私のピアノの原点はどこにあるかというと、グレン・グールドだ。
うら若き頃、新聞社のデスクでウォークマンで聞いていたのは、バッハのバイオリンソナタだった。日々のストレスから私を解放してくれたのはバイオリンの音色だったので、バイオリン曲ばかりを追いかけていたのだが、バッハのバイオリンソナタ6番ト長調にたまたま1曲だけ鍵盤のソロがあった。(→YouTube)
グレン・グールドの演奏だ。ゆっくりと軽妙なタッチで演奏しており、大好きなバイオリンソナタの中で唯一のピアノソロであったこともあって、なぜかしら、心はグイグイと引き込まれた。ぼんやりとリラックスした気分で、「こんな曲を生きている間に弾けるようになったらいいだろうな」と強く思った。まだ、ピアノとは無縁の生活であったにもかかわらず。
それから約20年後。イギリスに渡って1年目のある朝、とても不思議な夢をみた。FAXを受信する夢だったが、受信した紙をよ〜く見ると、文字ではなくて、楽譜だった。なぜかワクワクした気分になった。その日、買い物の帰りに隣り町の図書館に立ち寄ると、楽譜コーナーがあるのを見つけ、あれこれとめくっている間に、衝撃的な1冊を見つけた。「バッハ・バイオリンソナタ」の楽譜だ。

この楽譜との出会いがあまりにも衝撃的だったため、先生なしのピアノ1年目にもかかわらず、3カ月をかけてこの曲をコツコツと暗譜し、いきなり人前で演奏しようという無謀な試みまでやってしまったことは、以前に書き記した。(「本番」に強くなるコツ、「あがり症」を克服する知恵)
そんな過去をちょっぴり振り返りながら、グールド先生の80才の誕生日を控えて、「グレン・グールドは語る」を読んだり、すべてのテレビ出演をまとめたDVD「On Television: Complete Cbc Broadcasts 1954-1977」を眺めたりしている。(テレビ出演のグールド先生は、おそらくプロンプトを読んでいるとはいえ、俳優顔負けの雄弁と長広舌!)
今日、もっとも印象に残ったグールド先生の言葉。
「どんなものでもいいから、そのときいちばん深く関わっているものに対して、まさにその瞬間に、ひたすら集中せざるを得なくなったとき、そこで発揮される集中力は、ある種の超越性を帯びるのです」(グレーン・グールドは語る、41頁)
素人の私がグールド先生から学べることは、何であろうか。
- 演奏前に手と腕をお湯に漬けて温める・・・代用としてホカロンを使うべきか。あるは高速指体操としての指回し運動にするべきか。
- 鼻歌を歌いながら演奏する・・・「歌うように弾け」というならば、ほんの少し本当に歌ってみる。瞑想ではハミングで集中力が高まるというではないか。
- もっと鍵盤に近づいて的確にタッチする・・・両手を大きく開く曲でない限り、鍵盤にもっともっと接近してもよいかも。
- イメージだけで自分の最高の演奏感覚をつかむ・・・お風呂の中で、あるいは部屋を歩き回りながら、イメージだけで片手演奏や両手演奏をやってみようかな。
- 楽譜を徹底的にアナリーゼしてから、ピアノに触る・・・徹底的に楽譜を読み、暗譜を終えてからピアノに触る、っていう芸当できるかしら?