もっとも薄手の本は133頁からなる『ガロアと群論』(リリアン・リーバー)。冒頭はとてもわかりやすく読めるが、50頁の「不変部分群(正規部分群)」と55頁の「可解群」は頭にスッ〜と入ってこない。結局は、
1つの方程式は、その群が、その方程式の係数を含む体に対して、可解群であるとき、かつ、そのときに限って、ベキ根によって、解くことができる(81頁)
ということが理解できればいいらしいが、この1冊だけでは埒が開けそうにない。翻訳調でわかりにくいところもある。そこで次に求めたのが『群論への30講』(志賀浩二)。これは実にわかりやすく読める。11講以降の記号だらけの証明は読み飛ばしたくなるが、各講の最後にあるTea Timeという休憩コラムがこれまた面白く、なんとか先に進める。
で、問題の5次以上方程式に関しては、
5次以上の方程式にはべき根による代数的解法は一般には存在しないことを示した根拠は、n>=5のときに、交代群Anは単純群であるという事実であった。(129頁)
「可解群でない」=「交代群が単純群になる」と因数分解してくれたので、1歩前進だ。だが、こんな1歩は匍匐前進の1歩で、先々の道のりは険しい。群論を何も知らない人は、群の次数・位数、対称群(=置換群)、巡回群、可換群(=アーベル群)、部分群にまず慣れ親しんでから、偶置換、交代群、正規部分群を理解し、円分方程式、拡大体、ガロア拡大、ガロア関数、ガロア分解方程式などの壁をロッククライミングしながら、じっくりとビバークして考えているうちに「なるほどね」と言えるようになるらしい。
方程式の問題をどのように群論に置き換えているのか、という全体像はチャートでも描いてみないとわからない。私が探した範囲では<こちらのページの最後にあるチャートマップ>が全体像をもっともよく俯瞰しているように思える。
このマップを見て、ピンと来ない人はいったん下山したほうがよさそうだ。私もこの夏休みで山越えができると期待して軽装備で歩き回ってきたが、山の怖さを知っているので、ここでいったん引き返したい。ガロアが証明したのは1820年なので、200周年の2020年までに何とかしよう(笑)。
でもせっかく張り切って登ったので、以前に書いた『Why Beauty Is Truth』の延長で、少しばかり考えてみたい。
■群論を理解するためのたとえ話
私の関心の1つは、複雑な数学理論を生徒に理解させるうえで、一流の先生たちはどのような日常的なたとえを駆使しているかだ。たとえ話のうまい専門家は必ず優れた教育者であり、その比喩・たとえの事例は、他の科目の教育にも応用が可能なはずだ。
たとえば<こちらのサイト>では、「二つの巡回置換が,こうした家庭内離婚のような状態にあることを『互いに素』と言います」というたとえを使っている。「家庭内離婚」でなるほどと思うか、逆に不快感が優先されるか、あるいは何も感じないか、生徒の反応はさまざまであろうが、少なくとも身近なものに結びつけようという教育的な気配りはある。
また、巡回群の同型を理解させるうえで、
- 三乗根ωの掛け算 ・・・
→
→ 1
- 整数に1を足したときの3で割った余り ・・・ 割り切れる → 余り1 → 余り2
- ジャンケン ・・・ グー → チョキ → パー
- 給食で食べる順序 ・・・ パン → ミルク → おかず
さらに欲張りなことだが、初歩的な群論の理解が日常生活の活性化やビジネスのひらめきに応用できないものか、また、3・3・3・2でグループをつくる麻雀必勝法にも使えないものか・・・などと妄想している。
■「部分群」と「単純群」
部分群については、とりあえず納得するために次のようなカードゲームのたとえを考えてみた。カードをめくると「右に90度回転してワンと吠える」などの動作が書いてあるカードゲームがあるとする。このゲームでは2枚めくって組み合わせたり、同じカードを2回掛け合わせても、必ずどれかのカードの動作と同じになる。中に1枚だけジョーカーがあり、「いっさい何にもしない」(単位元)カードだ。どんなカードも、組み合わせによってジョーカーの機能をつくることができる(逆元)。
さあ、このカードで遊びましょう、と子供たちにルールを説明していたら、小さな子供が「カードがいっぱいありすぎて、よくわかんない」と言う。中に賢い子供がいて「全部使わなくても、一部だけでもゲームができるじゃん」と発見。仮にオリジナルのカードを52枚とすると、26枚や13枚でも遊べるじゃないか、と。
そんなサブゲームを部分群(subgroup)と呼ぶことにする。一部を選ぶときの枚数は、オリジナル総数の約数になり、ジョーカーは絶対にはずせない。でもサブゲームが必ず見つかるという保証はなくて、「オリジナルのままで遊ぶか、たった1枚でつまらなく遊ぶか」の2通りしかない「素数みたいな素っ気ないカードゲーム」があり、これを単純群って呼ぶんだってさぁ。
◆『群論への30講』:第18講 正規部分群 ― Tea Time 単純群について
単純群にどのようなものがあるか、それらは実際、完全に分類されるようなものなのかどうかということは、実に深い問題であって、数学者の興味をそそってきた。しかし、少なくとも20世紀前半には、その最終的な解答についてはまだ予想も立てられず、何世紀にもわたる懸案の問題になるだろうと、漠然と考えられていた。ところが、1982年になって、すべてが完全に解決されてしまった。単純群が、すべて求められたのである! この単純群の分類理論に全部証明をつけて著すと、優に5000頁を越すという。ふつうの数学書は大体300頁くらいだから、この理論の解明だけに10数巻の数学書が必要だということになる。現代数学が営々として築き上げた、壮麗な演繹体系の一面をうかがわせる、恐るべき成功といわなくてはならないだろう。
このようにして得られた、単純群の結果について、ごく常識的にかくと単純群には4つのタイプがある。
(1)素数pの巡回群
(2)n>=5のときの交代群An
(3)有限体上の線形群から得られるリー型とよばれる単純群
(4)散在的単純群26個
この(4)の26個の散在的単純群の存在は、それぞれに謎めいている。その中には、すでにマシュー(Mathieu, 1835-1890)が、1861年と1873年の論文の中で与えた特別な性質をもつ(4重可遷、5重可遷)置換群4個およびその部分群1個 ― マシュー群 ― が含まれている。
いかに散在的か(!)ということは、これら5個のマシュー群とよばれる単純群の位数が、7920、95040、443520、10200960、244823040 であることからも推察される。
26個の散在的単純群の中で、最も位数の大きい群は Monster Group とよばれている。その位数は 241・313・56・72・11・13・19・23・31・47 であって、実際計算すると54桁になる。
位数とは群の要素数のことなので、カードにたとえると7920枚、95040枚・・・のゲームだ。そして最後の Monster Group は現在知られている中での最大ではない。もはやこれ以上大きいものがないことが証明済みの最大なのだ。複素数は工学の常識となり、ハミルトンの四元数は人工衛星の位置制御も使われている。すでに解決済みの“単純”なる単純群は、さてどんな分野で活躍していくのだろうか。
ヒロさんが数学好きなひとであるのは知っていたけど、ここまで
本格的な興味をもっているとはおどろきました。
いえいえ、侮れないのは数学のほうです。整数、群論、関数、位相、集合・・・という山脈にうっかり迷い込んだら生きて帰って来れません。でも五次方程式の山ぐらいは、アマチュア登山家のささやかな楽しみとして、体力をつけた上で登ってみたいのです。ピンちゃんを昔いじめたのは、整数の女王さま? ベクトルの剣? 三角関数の恋の病? それとも微積分の羽交い締め?
有限単純群の分類 ― 別冊数理科学「群とその応用(サイエンス社,1991年10月)」より
http://homepage3.nifty.com/gomiken/math/cfsg.htm
位数2の有限単純群 Finite Simple Group of Order Two
http://hhosaka.hp.infoseek.co.jp/diary/finite_simple_group.html
どこかの数学科の学生のコーラス。proposition が「命題」と「くどき」の掛詞になっているなど、数学好きの人には笑いどころがいっぱい。
数学の美しさと出会うために ― モンスター単純群
http://www.hit-u.ac.jp/hq/vol019/hq19_20-21.pdf
『散在型の群のうち、元の個数が最大のものは、モンスター単純群と呼ばれている。その元の個数は、およそ8×1053、正確には
808,017,424,794,512,875,886,459,904,961,710,757,005,754,368,000,000,000
= 2^46・3^20・5^9・7^6・11^2・13^3・17・19・23・29・31・41・47・59・71
である。』
素因数に2と5が9回現れているので、下9桁はゼロが続く。だんだん美しく見えてきました・・・。
『千葉大学の自然科学系総合研究棟1階にある「サイエンスプロムナード」に、モンスター単純群の元の個数を刻んだモニュメントがあるが、これを提案した千葉大学の先生によると「人類が到達した意味のある数字のうち最も大きいもの」とのことである。モンスター単純群は、およそ8×1053個の元からなる群である。このような巨大な集合が、調和のとれた世界を構成している様は、壮観である。「モンスター単純群は、ひとつの宇宙のようなものだ」と言った数学者がいるが、まさに至言であろう。』
http://images.google.co.uk/images?&q=recycle
群論は量子力学へ応用できるので、昔はかなり勉強しました。数学者は夾雑物を取り除き、エレガントな定理にまとめあげますが、物理学者は逆に具体的な問題に適用します。
私は「集合」「空間」のような代数的な概念の方が好きでした。なので、群論も好きです。
http://mathworld.wolfram.com/SporadicGroup.html
私がイギリスでよくお世話になった高校数学の先生は、引退した量子物理学の専門家でした。「ダヴィンチ・コード」から数学的なウソを1つでも見つけた人は 10ポンド(2000円)あげる、とか言って生徒を挑発。キーボードでショパンを弾いて、曲のクライマックスがφの値と関係があると自説を披露したり、キーボード配列はフィボナッチ数列だとか説明してました。ラマヌジャンの生涯を扱った数学劇にも連れて行ってもらいました。
Complete Idiot's Guide to String Theory はいい本だから読め、って奨められましたけど、この本は樹海行きになるのが怖いので開いていません。
http://www.amazon.com/Complete-Idiots-Guide-String-Theory/dp/1592577024/
「Complete Idiot's Guide to String Theory」は、私が院生だった頃既に日本語に翻訳されて生協の本屋で見たことがあるような気がするけど、気のせいかも知れません。私の専門は物性理論だったので、量子力学を実際の物質に応用して性質を解明するというような感じだったのだけど、素粒子物理とか紐理論は専門外なので、上記の著書は読んでいないですね。
『アーベルの証明』(ピーター・ペジック)
『数学が育っていく物語:方程式』(志賀浩二)
ガロアの群論は非常に難解で
ガロアの時代、最高峰の数学者たちにも理解できない部分が
多くあったとか無かったとか・・・
初学の際にお勧めの本は、
ちくま学芸文庫「ガロア理論入門」
エミール・アルティン著
大学での集中講義をまとめたもので
途中でてくる演習問題についても
きちんと解答が載っていて読みやすい。
もともと数学の世界に足を踏み入れたばかりの
学生対象の講義ののーとですから、
導入として線形代数の復習
(これだけでも)
アルティン先生の名講義をたったの1200円でかえるところも魅力です。
なぜ、文庫なのだろうと思わずに入られません。
エミール・アルティン著「ガロア理論入門」のご紹介ありがとうございます。このガイドブックを携えて、今年の夏は再び山登り・・・。
定年退官した物理学者ですが、2010年12月発行の加藤文元著の「ガロアー天才数学者の生涯」
を楽しく読みました、学部の学生の頃、物理数学に授業で出て来た、コーシ、ラグランジュ、アーベル、
等のフランスの数学者がキラ星のごとく登場して、時代背景と共に、語られる。コーシがガロアの論文をアカデミーで紹介し損なったてしまったことでガロアが世に知られなくなったという。アレキソンドル・デウマのレ・ミゼラブルのシーンとガロアを重ね合わせているのが面白い。
「ガロア ― 天才数学者の生涯」は最新刊の新書ですね。ご紹介ありがとうございます。
こちらは実際にそういう幾何学のモデルを構築できる。
ここでモデルといってるのは、例えばクラインモデルの中で
「同じ角度」の角が、目で見て同じ角度に見えなかったり
するからです。ポアンカレモデルでは同じ角度のものは
目で見ても同じ角度に見えますが、今度はモデル内の直線
が目で見てまっすぐに見えません。
しかしまあそれはそういうものだと思うしかない。
要は論理的に矛盾がない、ということであって、
目で見るとかいうのは論理とは無関係だから。
(しかし素人は論理以前に目で見て分かろうとするので
そういう態度に固執しているうちはやっぱり分からない。)
「二つの物語の並存である。一つは代数拡大体、他は群である。双方の橋渡しは、補助方程式の用語(頁387)によって初めてなされる。この解説手法を会得するためには、あらかじめ代数方程式の可解条件を把握している必要がある。初学者は、この補助方程式の用語の導入による解説手順は、理解できない。」
「5次対称群や5次交代群は可解群でなく、ガロア群が可解群であるか否かが、方程式が解けるか否かです。本書はそれらに関して造語はあるものの、意味する内容の証明は全くありません。<中略>怒りの象徴としての方程式x^5-10x+5=0についても解決しました。式は既約で、実数解は3個で虚数解は2個。ガロア群では虚数解の2個は互換を演じることから5次対称群になり、それが可解でないから解けないのです。」
http://www.amazon.co.jp/dp/4860643631
この本は最高だ!「ガロア理論入門」や「数学ガール ガロア理論」よりも、まずこれを読むべし!