『演技は道具だ』は、みる、すう・はく、ふれる、たつ、の4章で構成される軽妙な語り口の演劇実践論だ。第3章の「ふれる」では、この世の自己紹介が何でこんなにつまらないの、とぼやいてみせる。「ふれる」ところの位置が、あまりにも浅すぎるからだ。
著者の提唱する3つの自己紹介とは、以下のようなものだ。
「はじめまして。今回、とりまとめ役をさせていただいた、井上です。鎌倉に住んでいます。よろしくお願いします」・・・と、そそくさと終わるのが普通の自己紹介だが、2回目、3回目、4回目と回ってきたときに、人は何を話すか。その展開の多様さと、一人ひとりの表情がおもしろい。大人数の場合は、「何周も」はちょっと難しいが。
「うその自己紹介」はルールが1つあり、「私は宇宙人だ」のような明らかなウソはダメで、本当でないことをさも本当であるかのように語ること。さらに質問を受けて、それに答えること。無意識にうちに誰でもついている小さなウソがあるが、敢えて意識的に初対面でこれを実践する。ウソつきは泥棒、じゃなくて演技の始まり。(私は、日テレ系、土居まさる司会の『ほんものは誰だ』を思い出す)
3番目はいわゆる「他己紹介」だ。まず<Aさん→Bさん、Cさん→Dさん>という形で取材の時間を取る。次に<Bさん→Cさん、Dさん→Eさん>の時間をとり、全員をカバーする。最後に他己紹介だが、伝聞調にしないことがルール。紹介される内容も面白いが、紹介している人の声・表情・しぐさもまた面白い。(同じ取材でも、朝日と産経の声色や強調される事実は、そりゃあ、違うもの)
この練習は、英会話やメディアリテラシーのテーマでも使えるかもしれない。