晴れた日の夜に星空を見上げると、数千年の昔に同じ天弧を眺めていた人たちのことを思う。現在田舎の丘の上に住んでいるせいであろうか、くっきりと浮かび上がる天球をひとたび見上げると、そのまま立ち止まってしまう。いますぐ外に出て見える星座からどんな物語が生まれてくるか、やってみよう。
南東または南の空にすぐに親しめるのはオリオン座。誕生日がふたご座とおうし座の人は、幸いなり。オリオンに右上におうし座、左上にふたご座をすぐに見つけることができる。オリオンの三ツ星を右上に延長すると、牡牛の目にあたるアルデバランが赤く輝き、さらに延長すると7人娘のプレヤデス(すばる)がぼんやりと光っている。左下に延長すると全天で最も明るいシリウスが煌々と輝く。狩猟の巨人オリオンに2匹の犬が連れ添っているというお話なので、オリオンの左上角のベテルギウス、おおいぬ座のシリウス、こいぬ座のプロキオンで、くっきりと冬空の大三角形を構成する。
オリオンが右手で高く掲げるのは剣、棍棒、手鎌とバリエーションがあり、前に突き出す左手は弓のときもあれば、牡牛の角を防ぐ盾の場合もある。いずれにせよ、オリオンはスペインの闘牛士のごとく、牡牛と戦っているのだ。
オリオン座の形を「狩猟の巨人」と吹き込まれるとそのように見えるだけで、世界各地の見え方はさまざまだ。別のギリシャ神話ではこれを牛の皮を剥いで広げた姿とする物語りもある。エジプトでは船にのるオシリス神だ。マーシャル諸島ではタコ、ボルネオ島では動物に仕掛けるワナ。ペルー(インカ)では4羽のハゲタカに食われる囚人。ブラジルではワニ、カメとみる部族もある。中国では周辺遊牧民の来襲から農産物を守る守護神・白虎の姿となっている。

古代ギリシャ・ローマは十二宮を採用したが、古代中国は二十八宿だった。四方位に北=玄武(黒い亀)、東=青竜(青い竜)、南=朱雀(赤い鳥)、西=白虎(白い虎)という4つの獣神を配属し、それぞれに7つの星座を割り振った。
北の黒い亀さんこと「玄武」を見てみると、「斗」は南斗六星のことで射手座、つづく「牛」はなぜか山羊座、“虚ろで危ない女”の「女・虚・危」は水瓶座だ。西の白い虎さんには、アンドロメダの「奎」や、牡羊座の「婁・胃」、プレヤデス星団の「昂(ぼう)」、牡牛座のヒアデス星団(あめふり星)の「畢(ひつ)」がいる。オリオン座の頭部は「觜」で、三ツ星を「参」としているが、オリオンのごっつい体全体を“四肢を広げた虎の姿”と捉えることもある。
古代エジプトではオリオンは男神オシリスで、おおいぬ座のシリウスは女神イシスだ。毎年シリウスが東から昇った直後に、同じ場所からこれを追いかけるように太陽の日の出が始まるときがある。これを元に1年の周期(シリウス・サイクル、Sothic Cycle)を365.25日として計算していた。女神イシスから太陽神ホルスが生まれる神話の元ネタだ。
ちなみに、最も明るい恒星シリウスは二連星だ。1844年にドイツの天文学者ベッセルが周期50年の伴星を予想し、1862年に望遠鏡で確認された。明るい星シリウスAに比べ、暗い星シリウスBは1万分の1の明るさであるため、肉眼での確認は(限りなく)不可能。が、1920年〜30年にフランス人学者2人による調査報告が、西アフリカのマリに在住するドゴン族がシリウスの連星を示唆する神話をもっていると発表。1976年出版の『シリウス・ミステリー』が宇宙人到来説と結びつけて話題になった。(ちなみにこの神話では二連星ではなく、三連星となっている。)
オリオン座は聖書の中にも見つけることができる。旧約聖書「ヨブ記」をごらんあれ。
神は北斗やオリオン、すばるや南の星座を造られた。
(ヨブ記 9:7)
(ヨブ記 9:7)
すばるの鏡を引き締め
オリオンの綱を緩めることがお前にできるか。
時がくれば銀河を繰り出し
大熊と小熊とともに導き出すことができるか。
(ヨブ記 38:31)
オリオンの綱を緩めることがお前にできるか。
時がくれば銀河を繰り出し
大熊と小熊とともに導き出すことができるか。
(ヨブ記 38:31)
日本語の聖書では「北斗」と訳してしまっているが、原語では「熊」だ。「すばるの鏡を引き締め、オリオンの綱を緩めることができるか」という表現に、ユダヤ教における占星術への目覚めが感じられる。
極東の日本では、オリオン座は韓鋤(からすき)や酒枡(さけます)にみえるとして「からすき星」「さけます星」と呼ばれていた。そのほかに鼓星(つづみぼし)、くびれ星(くびれぼし) 、袖星(そでぼし)と見立てる呼称もある。余談ながら、清少納言の『枕草子』にも出てくる「すばる」は、プレヤデス星団がひとかたまりに群れていることから、結びつきを意味する「統(すまる)」が転じて「すばる」となった。
日本のオリオン座の話で興味津々なのは、住吉大社の祭神の「筒男(つつのお)三神」だ。地元の人が「すみよっさん」と呼ぶこの神社では、住吉明神として底(そこ)、中(なか)、上(うわ)を冠する三神の底筒之男命、中筒之男命、上(表)筒之男命が祀られている。この三神の神殿は縦に並べられおり、複数神を縦に並べる様式は日本の神社の中で住吉大社がただ1つだという。
大和岩雄の『神社と古代民間祭祀』と『神々の考古学』では、この「筒男三神」を「オリオン座の三ツ星」としている。「つつ」は古代語で「星」を意味し、この三神が“次々と海から生まれた”という伝承がある理由は、オリオン座の三ツ星が東の海からのぼる際に、縦一直線となってせりあがることによる。さらにこの住吉大社の由来縁起を描いた『八幡縁起絵巻』(1389)では、住吉神と海を泳ぐ牡牛との戦いが描かれており、ギリシャ神話の猟師オリオンが牡牛座と闘う構図に一致する。(八幡縁起絵巻とは異なるが類似の絵巻はこちら)
牡牛がなぜ海を泳いでいるのかだが、これはギリシャ神話の助平ゼウス神のいつもの得意技で、あの島のかわいい娘をさらいたい、さらいたい、そうだ、牛に化けて彼女に前にのんびり横たわろう、そうすればそのうちに油断して背中に乗ってくれるかもしれないから・・・。いたいけな乙女はのちに「ヨーロッパ」という地名のもとになる「エウロペ」だが、この牛に乗った瞬間に、牛は海に向かって走り出し、バシャバシャと泳ぎまくって娘をクレタ島まで連れ去ってしまったというわけだ。この“欧州大レイプ事件”の星座神話が、何らかのルートで航海の安全を祈る住吉大社に合流したことになる。
■おまけ(グラハム・ハンコック批判)
星座の見え方で思い出すのは、グラハム・ハンコックの『神々の指紋(Fingerprints of the Gods)』だ。エジプトのスフィンクス(半獣半人)はピラミッドよりも早い時期に建立されているが、アトランティス南極大陸説にあこがれるハンコックは、「スフィンクス=しし座」なので、1万2千年前に違いないという強引な論法だ。春分の日の出と重なって見える星座は、現在は水瓶座に近づいているが、地球のコマ振り運動(歳差運動)が原因でイエスの時代からは魚座であり、ときを遡ると山羊座、牡牛座、双子座、蟹座、獅子座となっていた。スフィンクスがライオンに似せられて真東を向いている理由は、1万2千年前の春分点が獅子座であったからだという主張だが、そんな昔に「獅子座」と呼ぶものがあったのかどうか、疑問符がたくさんつく。(ちなみに獅子座の起源は5000年前のメソポタミアとされている)
■参考文献:
■学齢前の子供向けの究極の絵本:スズキコージの『ウシバス』

このウシバスはついに海を泳ぎだし、終点についてみると客が振り落とされて誰一人いなくなっている。これを超えられる抱腹絶倒の絵本はない。小さい子供がいる人は必ず買っとけ。

古天文の部屋:バビロニアの星座の名前
http://www.kotenmon.com/str/mulapin.htm
横浜こども科学館天文民族学のページ:古代の星座名
http://astro.ysc.go.jp/izumo/seizalst.html
メソポタミアの天文の歴史と日食/月食の記録
http://www.kotenmon.com/aeo/mesopotamia.htm
玄松子の記憶
http://www.genbu.net/data/settu/sumiyosi2_title.htm
『この筒男の起源は、定かではなく、土(垂加神道)、伝う(鈴木重胤)、星(吉田東伍)、津之男(山田孝雄)、対馬の豆酸(つつ)、帆柱の筒など。』
『住吉の神は、人丸や玉津島とともに、和歌の神でもある。軽皇子の前に出現し和歌を詠んだらしい。このように度々、人の姿で出現するため現人神としての信仰もある。記紀神話の鹽土老翁と同一とする説もある。』
神奈備にようこそ!
http://kamnavi.jp/en/settu/sumiyosi.htm
『船玉神は住吉三神の荒魂とも言われ、航海の安全とくに瀬戸内海の行路の安全を司っていた神であり、住吉大神の本質は航海神であったと思われる。』
横浜こども科学館天文ニューズレター
http://astro.ysc.go.jp/sin/sin72.html
『月が天球を1周するのにかかる時間は約27.3日なので、天球上の暦のための定点は、28宿・27宿どちらでもよいのかもしれない。インドは初めは27宿、後に中国から輸入された28宿を採用したようだ。』
『密教では、胎蔵・金剛両界曼陀羅が宇宙の原理を現わすとされる。この両界曼陀羅には、太陽神スーリヤ、月神ソーマ、木星ブリハスパティ、彗星ケトゥなどにまじって、黄道28宿も全員擬神化(グラマーなお姉さんになっている)され、曼陀羅のはしに登場する。27宿ではないことから、中国色の濃さがわかる.』
仏に関する基礎知識:星曼荼羅
http://www.reihokan.or.jp/syuzohin/hotoke/mandara/hosiku.html
仏に関する基礎知識:二十八宿
http://www.reihokan.or.jp/syuzohin/hotoke/mandara/28syuku.html
http://www.ne.jp/asahi/hon/bando-1000/dust/bokei/bok-43.htm
『記紀神話の七不思議の一つは、星のはなし、星の神話の少ないというより、まるでないも同然ということが上げられます。星の博士、野尻抱影先生でさえ、これにはサジ投げたくらいですから。』
「日本の星の神々」諏訪春雄通信311
http://www.haruo-suwa.jp/tuusinn311.html
『古代日本の天の神信仰や星辰信仰は中国南部の農耕民と類似性を示し、けっしてさかんではなかった。天神(男神)よりも地神(女神)信仰が中心。』
http://yumiki.cocolog-nifty.com/station/2008/02/post_699a.html
この記事の製造年月日は2008年2月22日ですね。焼きたてのホヤホヤをおいしくいただきます。
>変身のための起源論:「日向の妃」とエウロペ神話−書紀解論(四十)
>http://yumiki.cocolog-nifty.com/station/2008/02/post_699a.html
『いったい日本とギリシアには、神話に「特異的」な類似が多く、このことはデュメジルや吉田敦彦氏らによって指摘されてきました。この話もまさにそれです。
両神話の間では、他にも、次のような相似が有名です。
●オルフェウス=イザナギの「冥界往来」
●ペルセウス=スサノオの「龍退治」
●デメテル=アマテラスの「岩屋籠もり」
(参照→〈★日本神話の北方要素〉)。
遠く離れた日本とギリシアを結ぶものは、何だろうか? 吉田氏はそれをスキタイ文化と考え、「ギリシア=スキタイ=朝鮮=日本」神話の共通項を幾つも挙げています。まさしく僕もこれを支持する。他には考えられないからです。
いったいスキタイ文化とは、北ユーラシアの西から東へ、帯状に拡散した文化です。「戦士結社・馬と金属の文化・剣霊信仰・鳥霊信仰」らが主な特徴。印欧祖族〜テュルク族〜モンゴル族らの複数民族が、さまざまな形でその文化を担いました。
カフカス山地のオセット族、中央アジアを駆け回った匈奴族、東欧に君臨したフン族、ブルターニュまで西遷したアラン族…らは、みなこの流れに属しています。
(参照→〈★馬の世界史〉)。
◆北九州の「サカの国」
ときにギリシアは、先住民ペラスゴイを征服民ドーリス人が支配して成り立っており、ドーリス人は黒海方面から侵入した騎馬民族です。つまり彼らはスキタイの支流だと考え得る。ローマに入ったサビニ人も、やはりそうだ。
いっぽう日本の成り立ちには、中央アジア→秦帝国→斉(山東)→南韓→西日本と渡って来た集団が重要な一部を構成した…と考えられ、彼らがスキタイ文化を持ち伝えた可能性がとても高い。
なお「スキタイ」とはギリシア語で、彼ら自身の自称は「サカ」です。これを頭に入れるなら、『風土記』に「坂・酒・栄・佐嘉・佐久・裂・咲…」らの語素が頻出することは見落とせない。』
http://www.ffortune.net/calen/calen/fromqa/qa107.htm
「文殊師利菩薩及諸仙所説吉凶時日善悪宿曜経」
http://www5e.biglobe.ne.jp/~occultyo/uranai/syukuyoukyou.htm