2007年12月21日

Slow is Beautiful

その昔、高度経済成長の世相を反映するかのように、「大きいことはいいことだ」というチョコレートのCMがあった。その後、大量消費、環境破壊などに対する反省として、イギリスの仏教徒シューマッハが「Small is Beautiful」という標語を掲げた。で、21世紀に入ったヨーロッパでは「Slow is Beautiful」だ。

「ゆっくりなのはいいことだ」という一見たわいもないスローガンだが、この運動を私なりに解釈すると、生活にメリハリをつけよう、もっと今を感じて生きよう、ときどき時計を捨てよう、技術信仰をやめよう、ということであろうか。

天気のいい日はサンドイッチを携えて、ファーストフード的に歩きながら食べるのもよし、一方で手料理をじっくりと仕込んで、みんなでワイワイとおしゃべりしながら3時間のランチもよし。

テレビは捨てる、インターネットはほどほどにする。携帯電話や時計を持ち歩かない時間をつくる。散歩、庭いじり、編み物、絵画、陶芸、朗読にひたる。

以前、西洋クラシックの演奏ピッチ(=音程)が徐々に上がっている話を取り上げたが、演奏のスピードも加速している。ベートーベンのソナタ106番は1876年当時は約1時間で演奏されていたが、50年後には40分になり、現代は35分に圧縮されている。演奏家がテクニックやスピードを競い合い、これを鑑賞する側もハイテンポを求めるようになったからだ。

「技術は人を豊かにする」という言葉に何度となく躍らされ、騙されてきた。かつてベンジャミン・フランクリンは18世紀後半から始まった技術革命に触発されて「いずれ人間は週4時間以上働くことはなくなるだろう」と言ったが、到来した産業革命では1日15時間労働でこき使われることになった。

人生を楽しむ「ゆっくり運動」ではイタリアが推進力になっている。カタツムリをシンボルマークにした“Slow Food”運動が始まったのも、“Slow City”という都市生活「減速」運動が盛んなのものイタリアだ。クラシックの演奏スピードを落とす“Slow Music”や、寝室を飾り立て、香を炊き、神秘的な音楽を流して「ハレ」のイベントを演出する“Slow Sex”もある。モンテッソーリ教育も、シュタイナー教育と同じく、子供をできる限りゆっくりと育て上げようという理念をもつ。

ローマ大帝国の誇り、人間性回復のルネサンスの記憶、地中海性気候の気質や豊かな食文化などが成せる業なのであろうが、ともあれ、自分に正直で、本音を実践する「イタリア気質」をわが生活にも大いに取り入れたいところだ。

■つぶやき:
『In Praise of Slow』という本は邦訳があるのかどうか知らないが、日本の話題が満載だ。有機農業・地場食では秋田比内鶏や名古屋コーチン、卓袱台ブームを取り上げ、日本人のラテン気質化の話ではナマケモノ倶楽部(俗称ナマクラ、1999年設立)も登場する。“Slow Sex”の話で『週刊現代』(2002年の特集)を参考文献に上げているところは少々怪しいが。


posted by ヒロさん at 00:47 | Comment(1) | TrackBack(0) | 眠り&くつろぎ
この記事へのコメント
TITLE: 同感です
「自分に正直に」「本音を実践する」は、一度しかない人生で最も大事で最も困難なような気もします。が、目の前にある出来ることからやっていくうちに、チャンスが(これに気づくことも大事でしょうね)めぐってくるのでしょうか。気づくためには、Slowな生活が求められるのですかね。足早に過ごすことで、大事なことを見落とさないように・・・
Posted by いつかはUK at 2007年12月22日 03:26
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。