2007年11月26日

ひとり芝居のあなたを癒す「七つの人形の恋物語」

世の中には本格的な「自作自演ブログ」が(まちがいなく)ある。ここでいう自作自演とは、たくさんの人がコメントしているように見えるが、実はブログ主が複数のハンドル名と文体を使い分け、壮大なひとり芝居を演出しているブログのことだ。

「いつも読ませていただいています。寒くなってきましたが、お体にはくれぐれもお気をつけください」と自分で自分をなぐさめる。「今日のエントリは少々極端ではございませんか。○○の解釈は××もあると思うのですが・・・」と少々書きすぎたかなと思える本文を、自らトーンダウンさせる。

このような自作自演ゲームは、自分の「個室パソコン」で勝手にやっていてほしいところだが、観客・聴衆がいればこそ、やる気満々に燃えてくるのが、芝居の芝居たるゆえんだ。

すべてはゲームであり、ドラマなのだ。最初は軽いお芝居のつもりで始めたのかもしれないが、複数のハンドル名を使い分けて何度も何度も書いているうちに、Aさん、Bさん、Cさんに独特の人格や人柄が形成されていく。

仮にブログ主のハンドル名を「ソクラテス」としよう。コメント欄には当然のごとく「プラトン」が質問攻めにやってくる。「ピタゴラス」がオカルトまがいの茶々を入れたかと思うと、弁証法の「ヘーゲル」が自分勝手な総括を始め、一息ついたところで「スピノザ」が神の審判だ!と叫びながらブログを荒らしまくる。

自分のブログのひとり芝居で物足りなくなると、人様のブログにも同じように「多重人格」で次々と投稿を続ける。一日の大半をパソコンに張りついて暮らしているので、現実と仮想の境目が怪しくなっていく。自宅から一歩も出ていないのに、「今日は海外のホテルから書いています」と平気でウソが書けるようになる。

この話で思い出すのは、ポール・ギャリコ(Paul Gallico)の逸品『Love of Seven Dolls(邦訳:七つの人形の恋物語)』だ。

舞台はフランスのパリ。踊り子を目指して田舎から出てきた少女が、夢破れて、セーヌ川に身を投じようとしていた。と、そのとき、背後から声がする。「セーヌ川の底は冷たいよ・・・。ザリガニが肉をボロボロに食いちぎるよ・・・」

人形劇のブースから、キツネの人形が乗り出して話かけている。このブースには7つの人形が代わる代わる登場する。甘える人形もあれば、なだめすかす人形もある。攻撃するもの、冷笑するもの、理知的に振舞うものもある。

人形たちに心の琴線をくすぐられた少女は、自殺を思いとどまり、この一座に歌姫として加わり、一緒に旅に出ることになる。“一座”とはいうものの、ギター弾きの黒人のアシスタントが1人いるだけで、7つの人形を操っているのは座長がただひとりだけだ。7つの人形の人格も声色も口調も、すべてのこの座長の内部に潜む多重人格が乗り移って表現されている。

人形の人格はとってもやさしいのに、人形ブースから出た瞬間、この座長はシニカルで暴力的だ。動物のようなギラギラとしたまなざしで睨み付け、誰にも心を許さない。そしてある夜、この少女に襲い掛かる。そして翌日には、何もなかったかのように人形劇の舞台が続いていく・・・というストーリーだ。

多重人格の自作自演ブログの場合も、多様性や柔軟性があり、人形のようにやさしく擦り寄ってくる。コメント欄にいろんな意見の書き込みがあることに油断したあなたは、ついうっかり、正直な意見を書いたり、メールを送ったりしてしまう。いけない、いけない。

すべては癒されない心が生み出した「仮想空間」だ。このわが世の春の仮想空間に、ただの1つでも異を呈する意見を書いたら最後、卓袱台(ちゃぶだい)がひっくり返る。人形劇ブースを丸ごとセーヌ川に投げ込むような大乱闘が始まる。

このような人形劇ブログは、そっーとしておいてあげることだ。そっー・・・と。

さて、自省をこめて振り返ると、どんな人にも癒されない部分、分裂したままに放置されて部分はある。かつて「ヒロさん日記」は、「ヒロ子」と「サン吉」の男女2人がペアで書いているという説もあった。2人と言わず、7人ぐらいの人格があれやこれやと書き散らかしているともいえる。実際、ピースボート、神話学、911、ピアノ&音楽の記事は、それぞれ異質な人格であるかのようだ。

ポール・ギャリコの『七つの人形の恋物語』の結末は美しい。分裂していた7つの人格に統合の瞬間が訪れるからだ。無理に一貫性のあるブログを書くことはない。正直に分裂しながら、年を追うごとに統合されていけばよろしいのではなかろうか。

posted by ヒロさん at 09:54 | Comment(2) | TrackBack(0) | ネット生活と読書
この記事へのコメント
TITLE: 「小鬼たち」の転生物語 いいですね。
「悪は善なしでは生きられないんだよ」ムッシュ・ニコラはにわかに別人のような声音になった。「おれたちみんな、きみなしでやっていくくらいなら死んだ方がましだ」

さてはて人形のページもよろしくね。
Posted by さてはて at 2007年12月02日 20:42
TITLE: こんにちは^^
「七つの人形の恋物語」が舞台化されていることを、ご存知ですか?
http://www.ongakuza-musical.com/sakuhin/sevendolls.php
↑こちらで映像が見れます★

約20年間温めて、2008年に初めて公演されました。
正直、これほどの作品をミュージカルにすることは大きな勇気が必要でしたが、公演後はギャリコ夫人にも大変大変喜んでいただき、この夏に待望の再演が決定いたしました!
情報は随時ブログにもアップしていきますので、ぜひ遊びに来てくださいヽ(。・∀・)人(・∀・。)ノ
http://blog.livedoor.jp/tominaga_yuuki/

突然の訪問、おじゃましたしました。
Posted by ゆうき at 2010年04月10日 13:41
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