2007年06月15日

「イスラエルは地図から抹消されるべき」というプロパガンダ報道

イラン大統領の過激発言を憶えておられるだろうか。

IDCJ/最近の中東情勢から(2005年10月28日)
 イランのアフマディネジャド大統領が2005年10月26日、テヘランで開かれた「シオニズムなき世界」と題する集会で「イスラエルは地図から抹消されるべきだ」と演説したことが、世界各国から批判されている。同日の集会には主として学生からなる3000人の聴衆が参加していた。

佐藤優も2007年4月の「毎日21世紀フォーラム第61回例会」(大阪市天王寺)で「イスラエルは地図から抹消」の話を取り上げ、「心理分析によると、(イラン大統領は)言っていることを本当に信じている」とつけ加えている。この話は世界中で広まっていて、日本でもGoogleで「アフマディネジャド イスラエル 地図 抹消」を検索するとたくさんヒットする。

アフマディネジャド大統領はさらに「ホロコーストは作り話」と発言したという。私がイスラエルの友人にこの話を伝えると「奴に本当のことが何がわかるんだ!」と立腹していた。

しかし、どちらも言葉のギャップを利用した歪曲であり、プロパガンダだ。真相はこうだ。

Does Iran's President Want Israel Wiped Of The Map - Does He Deny The Holocaust?
The term 'map' to which the media refer at length does not even appear. Whereas the 'New York Times' said: "Our dear Imam said that the occupying regime must be wiped off the map" the version by MEMRI is: "Imam [Khomeini] said: This regime that is occupying Qods [Jerusalem] must be eliminated from the pages of history."

アフマディネジャドはホメイニ師の言葉を引用し、「エルサレムを占拠している体制は歴史のページから削除されなければならない」と言った。「歴史のページ」であって「地図」ではない。削除されるべきは「シオニスト政体」であって、「イスラエルという国家」ではない、ということだ。

もちろんイスラエル右派政権からすれば、「シオニスト政権の排除」=「イスラエルを武力で滅亡させる」と考えるのは当然のことではあるが、ともあれ、この誤訳の犯人はニューヨークタイムズなどだった。

さらに「パレスチナでの攻撃の波がイスラエルをイスラム世界から消し去る」という発言があったとされているが、これも「パレスチナの波(=運動)が、汚点をイスラム世界から消し去る」が正しいという。攻撃を意味する「assault」という単語は翻訳で付け足されたものだった。

1ヵ月半後に別の演説で言及したという「ホロコーストは作り話」はどうだったのか。

◆朝日:「大虐殺は作り話」 発言エスカレート(2005/12/15)
 イランのアフマディネジャド大統領は14日、南東部シスタンバルチスタン州の州都ザヘダンで演説し、「ユダヤ人大虐殺(ホロコースト)は作り話だ」と述べた。国営テレビが実況中継した。同大統領の一連の反イスラエル発言はエスカレートしており、イスラエルや欧州各国から激しい怒りの声が起こっている。(ネットソース)

この発言の全体の文脈がわかるように、「れんだいこ」サイトから要約を引用したい。

「いくつかのヨーロッパ諸国は、ヒトラーが無実のユダヤ人数百万人を焼却炉で虐殺したと主張している。そして彼らは、もし誰かが何がしか反対の見解を論証しようとしたら、そういう人たちを非難し、監獄にぶち込んでいる。我々は、彼らの主張を認めないのだけれど、それが真実だと仮定した場合でさえ、我々は連中に次のように質問してみたい。ヒトラーによって無実のユダヤ人が殺されたとして、そのことが、ユダヤ人のエルサレム占領を支持する理由になるのか。もし、君たちが自分たちの論に正直であるなら、罪滅ぼしでヨーロッパの田舎のどこぞの地域をシオニストどもに与えるべきではないのか。例えば、ドイツ、オーストリア、その他のシオニストどもは、ヨーロッパにこそ彼らの国家を樹立すべきだ。君たちはヨーロッパの一部を提供することを申し出よ。そしたら我々はそれを支持しよう」(ソース:れんだいこ)

アフマディネジャドが「数百万人の虐殺」に疑問を呈しているのはまちがいないだろうが、ドイツの通信社DPAは、元発言の「ホロコーストの名の下に神話を作り上げた」を「ホロコーストは作り話だ(神話だ)」に歪曲している。

Does Iran's President Want Israel Wiped Of The Map - Does He Deny The Holocaust?
There again we find the quotation already rendered by n24: "In the name of the Holocaust they created a myth." We can see that this is completely different from what is published by e.g. the DPA - the massacre against the Jews is a fairy-tale.

ドイツの通信社DPAがこれを報じたのは2005年12月14日だが、これはデンマークのユランズ・ポステン紙(Jyllands-Posten)が風刺画でイスラム圏を挑発した2005年9月からの流れとして捉える必要があるだろう。

慰安婦論争でも安倍首相の発言が正しく英語に翻訳されているか、という問題もあった。翻訳された英語ソースには、もっと慎重に取り組みたい。イスラエルの友人にも「翻訳に歪曲があった」ことをこれから説明するつもりだ。

posted by ヒロさん at 19:42 | Comment(16) | TrackBack(0) | 報道・メディア論
この記事へのコメント
TITLE: はじめまして
以前から「変だなあ…」と思っていたので、胸のつかえがおりたような気分です。
当然ご存知とは思いますが、イランには今も25000人のユダヤ人が住み、議会に議席もあるってのに。
Posted by 技維 at 2007年06月15日 21:19
TITLE: おお懐かしい!
このネタは、少し前にwhat really happened.comで詳しく取り上げられていましたね。
Posted by アルルの男・ヒロシ at 2007年06月15日 22:53
TITLE: しばらく隠居します
今まで「地図から抹消」の報道を信じて生きてきました。剃髪し、僧院に篭ります。
Posted by Hiro-san★ブログ主 at 2007年06月15日 23:04
TITLE: これはすごい
はてななら[これはすごい]とブクマされるようなすごいエントリですね。
メディアの要約って怖いよね。
ベネディクト16世のイスラム問題発言報道でもすごく感じたけど。本論の主旨がねじ曲がったりして、対立を煽っているのは実はメディアではないかと思ってしまう。
Posted by あんとに庵 at 2007年06月15日 23:33
TITLE: ハザ−ル人
イスラエルが建国(1948)される前は、パレスチナ人もユダヤ人も共に助け合って生活していたらしい、1000年以上も。イスラエルのユダヤ人は白人で彼らのル−ツはカスピ海
沿岸にあった、ハザ−ル王国で、この国はイスラムとキリスト教国から侵略されそうに
なった時、国教としてユダヤ教を選んだといういきさつがある。聖書に書かれている神
に選ばれた民としてのユダヤ人は白人ではなく、インド、バルカン半島にル−ツをもつ
アラブ人だったということらしい。であるから、中東諸国のアラブ人達には、ニセユダヤ
を名乗るシオニストの、他民族と協調しようとしないイスラエルの強権な外交には賛同
しかねるというのがイスラム民族の主張らしい。
Posted by 天下泰平 at 2007年06月16日 03:03
Posted by 天下泰平 at 2007年06月16日 03:10
TITLE: ユダヤ人議員の発言
はじめまして。
いつも大変興味深く拝読させていただいております。

 >本論の主旨がねじ曲がったりして、対立を煽っているのは
  実はメディアではないかと思ってしまう。

あんとに庵さんに激しく同意です。

が、このたびの件に関しては、イタリアのRAI放送
「テヘランのユダヤ人」というドキュメンタリーの中に
ユダヤ人国会議員の次のような発言がありました。

 >イラン大統領が14ヶ月前にホロコーストに反する宣言を行った時、
 私はユダヤコミュニティ選出議員として、証拠に裏打ちされた
 歴史的悲劇の否定に対して公式に不賛成を表明しました。
 ユダヤ人が2700年も前から暮らす国の大統領のこのような宣言を
 支持するのは、個人的に遺憾に思いました。
 しかし同時に、誰もが思うところを表明できるのは民主主義の
 根幹ルールであると思います。(イタリア語版からの抄訳)

RAIのサイトには英語版もありますので、もしご興味があれば。
http://www.rainews24.it/ran24/rainews24_2007/inchieste/ebrei/default.asp
(ビデオは右上から呼び出して下さい。件の発言は4分10秒からです)
Posted by kamenoko at 2007年06月17日 04:06
TITLE: パーレビ国王体制でモサドがイラン軍を指導
kamenokoさん紹介のビデオは興味深いものでした。私は英語版で見ました。
http://www.rainews24.it/ran24/rainews24_2007/inchieste/ebrei/default_eng.asp

このイタリア語放送の英語版でも「Israel should be wiped out from the map」になってます。一方、ホロコーストの方は南京虐殺と同じで「まぼろし派」や「実際は10分の1以下」というような議論が持ち上がっているように思われます。

イランにはシナゴーグが100以上あり、首都圏には1万人前後のユダヤ人が住んでいるとのこと。1979年のホメイニのイラン革命でユダヤ人迫害はなかったというのもいい話でした。

一方、シャー・パーレビ国王時代には、イラン軍はモサドの指導を受けていたというのは驚きでした。1953年にCIAとMI6の陰謀でクーデターが起こりましたが、その後、イスラエルとの関係がどう進展したのか、ちょいと勉強が必要です。
Posted by Hiro-san★ブログ主 at 2007年06月17日 05:25
TITLE: なぜ誤報の訂正をしないのか
「誤訳の犯人はニューヨークタイムズ」「ドイツの通信社DPA」に「誤報」を「訂正」するか確認したら済むことなのに、なぜそうならないのかが不思議です。
センセーショナルな話題はソースの確認が大事ですね。
Posted by だましがいつもの手 at 2007年06月17日 11:43
TITLE: 追記
私もそんなに詳しいわけではありませんが…
パーレビ時代のイランはイスラエルと友好関係にあり、中東戦争で他のアラブ諸国がイスラエルへの石油を禁輸する中、イランはイスラエルに石油を輸出し続けて勝利に貢献したと聞いています。
それと、モサドはイラン秘密警察サヴァクと共同で反政府活動者狩りを行い、大勢の民主活動家を処刑した、とのことです。革命政権はこのことをかなり怨んでいるようですね。
イスラエル対イランを、ユダや対イスラムの構図に「ずらして」しまおうとしてるみたいですね。
Posted by オサ−ン at 2007年06月17日 13:33
TITLE: 映画「ターミナル」と秘密警察ザヴァク
スピルバーグ映画『ターミナル』の原作は『ターミナルマン』。トム・ハンクス主演映画の実在モデルは、イランで生まれてイギリス留学したものの、送金が途絶えて帰国、しかし秘密警察サヴァクに捕らえられ強制出国。その後、フランスのドゴール空港暮らし・・・。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4901784714/
Posted by Hiro-san★ブログ主 at 2007年06月17日 20:29
TITLE: 「歴史のページから削除」の方が悪質か?
友人のベルギー人に「地図から抹消」ではなく「歴史のページから削除」が本当みたいだよと話してみた。そうすると、「そっちの方がもっと悪いね。自分たちが歴史を書き換えるつもりだろう。恐ろしい」との反応だった。
イスラエルを地図上から物理的に抹消する!
シオニストを歴史のページから排除する!
さて、怖いのはどちらだろうか?
Posted by Hiro-san★ブログ主 at 2007年06月17日 23:32
TITLE: 白人のユダヤ人と黄人のユダヤ人
キリストが十字架に架けられたときのユダヤ人はパレスチナの人たちと同じ黄人だったはずなのにいつの頃か白人のユダヤ人が、どうなっているのですか
Posted by やまんドン at 2007年06月19日 22:30
TITLE: 千夜千冊『ユダヤ人とは誰か』アーサー・ケストラー
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0946.html
『偽りの「イスラエル」〜新・日ユ同祖論の虚構』竹下義朗
http://www004.upp.so-net.ne.jp/teikoku-denmo/html/history/honbun/nichiyu.html
Posted by えの at 2007年06月20日 10:08
TITLE: ナチラエルとは何か
 ナチラエルとはナチスとイスラエルを合成した言葉である。ナチスはユダヤ人を大虐殺したと喧伝されている。確かにそういう事実は存在したであろう。ヨーロッパの歴史において、国を失ったユダヤ人が、キリストを指したということで迫害を受け、自衛のためにやむを得ず世人から糾弾されるような行為に手を染めたこともあっただろうし、そういうことに対しては責任を追及することは酷かもしれない。

 しかし、第一次世界大戦に敗北して、ベルサイユ条約によって多額の賠償金を支払わされるようになったことや、その他の事情により超インフレ経済に追い込まれたドイツにおいて、ユダヤ人たちが食うや食わずのドイツ人を尻目に贅沢三昧、したい放題の放縦な生活を謳歌して、ドイツ人から深い恨みを買ったことも事実であり、それがヒットラーの思想と結びついてユダヤ人絶滅行動へと突き進んだことは許されるものではない。しかし、上記したようにナチスの行為にユダヤ人が完全に責任がないということはできない。

 しかし、パレスチナ問題にはパレスチナ人にはまったく責任はない。全責任は英仏米をはじめとするヨーロッパ人およびユダヤ人にある。しかも、イスラエルのユダヤ人共は、直接の虐殺行為はしないものの、ナチスドイツ人がなしえなかったような、ある意味では虐殺よりもむごいやり方でパレスチナ人迫害を建国以来繰り返している。強盗国家イスラエルのユダヤ人はナチスドイツ人よりも恐ろしい人非人である。

 よって、ナチラエルという称号がイスラエルにはぴったりである。
Posted by ユダヤ人は世界の癌的存在 at 2007年12月13日 12:21
Facebookからきました。
Facebookのイスラエル在住の日本人コミュニティで
ハマスがテロリストで病院や学校にミサイルを隠してるから悪いという論調で、
イスラエル軍が紳士だというアピールが激しいんですが
ちょっと不気味です。

イスラエル軍が攻撃前にガザに今から攻撃するから逃げるように市民にビラをまいたというそのビラ本物をお持ちで
Facebookにビラの写真までアップしていて
すごく快適そうな綺麗なシェルターで家族で過ごしてる写真までアップしていました。

よくある戦争プロパガンダの雇われた方々なのでしょうか?

圧倒的に戦闘力に差があり虐殺の正当化にしか見えず
「大量破壊兵器を隠してる!」と攻撃を正当化したアメリカのようで、、
なにか怖いんです。。

何かご存知でしたら、記事にとりあげて頂けないでしょうか…
Posted by はじめまして at 2014年07月20日 21:26
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。