日本語の習得では「文字学習」の負担が実に大きい。とりわけ漢字は、小学校では約1000字を覚えないといけないが、その後も、約2000字の最終目標に向けて、果てしない学習が続くわけである。
幼くして漢字をマスターした天才・秀才もいるかもしれないが、ほとんどの人たちは、小学校で一生懸命に練習して、リンク先にあるような1000文字をコツコツと勉強してきたわけである。「千日行」という厳しい修行があるが、何ごとも「千」に到るのは大変なことで、「千文字行」を耐え忍んだ自分を褒めてあげたい。
アルファベットの言語は楽なものである。英語ではABCを26文字習えば、それでこと足りる。文字教育を意図的に遅らせているシュタイナー教育でも、1年の2学期に「大文字」をやり、3学期に「小文字」をやり、2年の1学期に「筆記体」をやればそれで終了である。
ただし、英語では「発音とスペリング」の関係が乱れているので、正しい単語を書くための道のりは長い。黙字や記号の多いフランス語も少々やっかいだ。スペイン語になると「例外のスペリング」が存在しないので、読むのは楽勝である。フィンランド語やエストニア語になると、音と綴り字がほぼ「1対1」に対応しているので、「話せれば書ける」ことになる。
ヘブライ語やアラビア語は、母音の表記がほとんどないので、子音の字を見て、母音を補って読まないといけない。すなわち、単語の知識を増やし、文脈で判断しないと「字ずら」だけでは読めないことになる。
われらの日本語はどうか。「ひらがな」「カタカナ」の基本形を45種類ずつ覚え、さらに2千字の漢字があり、訓読みは多様で、音読みも「漢音・唐音・呉音・慣用読み」があり、複雑極まりない。しかしながら、いったん覚えてしまえば、読むときの認知スピードは速い(はず)。
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小学校の先生たちの話を聞くと、小学1〜2年のときに漢字の面白さに目覚めた子供たちは、その後、ほぼ自動的に漢字学習が進展していくという。
「絵文字」としての漢字は、外国人の大人でもすぐに覚えられる。「一、二、三」「上、中、下」「日、月、明」「木、林、森」「山、川、水、雨」「目、耳、口、手、足」「人、母、車、糸」などを、大学の外国人に何度も試してきたが、1人残らず、15分もあれば、ほぼ完璧に覚えてくれた。
やり方は簡単で、カードの表に「漢字」を1つ書き、裏にはその形を取り込みながら「絵」を描いておく。そして漢字を見せながら「これ、な〜んだ?」とクイズをやり、はずれたら裏の絵を見せる。
覚えるとはいっても、日本語の発音で読んでくれるわけではない。「One, Two, Three」「Up, Middle, Down」「Sun, Moon, Bright」のように「意味」を答えてくれれば、それで正解である。「書ける」ところまでは要求しない。読み分けることができれば、それでよい。
「読めればいい」というゲームは、こんなに簡単なのだから、1日に10字、1ヵ月で200字を覚えるくらいは、わけがない。とりわけ、9才ぐらいまでの「図形感覚」は驚異的であり、トランプで「神経衰弱」という同じ数字のカードを当てるゲームをやると、大人は絶対にかなわない。
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今の小学校の漢字教育は、次の点を考慮にいれて、抜本的な改革が必要である。
書くときの「スポーツ感覚」とは、体全部をつかって、大きく、リズミカルに文字を表現する訓練であり、この点では、シュタイナー教育は参考になる。紙の上のマス目にちまちま字を書くような練習から入るべきではない。
1歩外に出れば、社会には「ぎゅうにゅう」も「けいたい」も存在しない。小2で「電車」「牛乳」「紫外線」「携帯」「化粧」をコトバとして理解しているなら、テキストの中で社会に存在しない「ひらがな表記」はやめるべきである。漢字表記にはルビをつければよい。
「雨かんむり」がわかると、「雨、雪、雲、雷、電、霜、露、雹」はすぐに読めるようになる。ただ、小出しにバラバラに出されると、「書=筆=建=律」や「旗=旅=族=遊」の関係が理解できない。部品の知識を高めないと、「黒」に「火」があり、「育」に「肉」がある面白さにも目覚めない。

最近、日本から取り寄せた宮下久夫『98部首カルタ』(太郎次郎社)はなかなかよくできていた。小学低学年に特にお奨めだが、大人にとっても面白い。きへん(木、本、林、森、村、校、植・・・)、いとへん(糸、紙、組、絵、細、線、級・・・)、ごんべん(言、記、話、語、読、計、詩・・・)の意味するところは、常識的に誰でも知っているはずだ。なぜなら小1〜2で「木」「言」「糸」という字を習い、「部品」としてマスターしたからである。
ところが「まだれ」や「むちづくり」になると、あやしくなってくる。
● 広、店、庫、庭、底、府
● 教、放、改、救、整、数
「まだれ」は「外に開かれた屋根の半分」を意味するので、「屋内」と「屋外」の境界に位置している。「むちづくり」は「ムチでペシペシ」やりながら、教えたり、改めたりするわけである。
部首カルタでは、こんな読み札がついている。
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世界中の言語は、中国語を除いてすべてが「表音文字」である。人類はすべからく「絵文字」から「音文字」に移行してきたわけだが、いまだに「原始的」な形態をとっているのは中国語であり、日本語は漢字を使いながらも「かな」という表音文字をもっているので、「野蛮人」と「文明人」の両方が理解できる仕組みになっている。
さらに表記法でいくと、ほとんどすべての言語が「ヨコ書き」となり、本来「タテ」が主流だった中国語も、最近は「ヨコ」に押されている。一方、印刷物の出版部数(人口あたり)で世界一を誇る日本は、「タテ」が主流ながらも、「ヨコ」も自在にこなす文字文化である。
このような特殊な言語体系をもったわが日本は、きっと、さまざまな新しい発想で、人類全体に貢献できるのではないか、と密かな希望をもっている私である。とすれば、まず、自らの「文字教育」に、もっと独創的な手法を開発できないわけがない。
日本の「九九」は世界的にも定評が高い。これに匹敵する「漢字学習システム」があって然るべきではなかろうか。「外国語を学習すると、日本語が疎かになる」というケチな発想ではいけない。明日の日本のためにも、日本語もできるようになり、さらに「文明語」の英語も、「野蛮語」の中国語もどんどんできるようになる仕組みをみんなで考えよう。
■追加:漢字を疎かにすると、こういう国になる
千夜千冊『漢字の世界』白川静
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0987.html
『中国古代の文化』白川静
http://www.hi-net.zaq.ne.jp/buakf907/books112.htm
http://www.chokanji.com/tompa/
『中国雲南省に住んでいるナシ(納西)族のあいだで、なんと約1000年も前から使われ続けている、世界でたったひとつの生きている象形文字。それが「トンパ(東巴)文字」なんだ。』
>「S」の文字を扱うときには、美しい「白鳥」の黒板画を描きながら、その中に「S」という文字を「隠し絵」のように忍ばせ、先生の裁量でさまざまな創作童話を語っていく。
「女」という文字は、赤ちゃん(ノの部分)を抱っこしているお母さん
すごいシュタイナーであります。
>「女」という文字は、赤ちゃん(ノの部分)を抱っこしているお母さん
フェミナチの攻撃に会いそうな解説ですね!!「母」のテンテンは、2つのオッパイだよ。オッパイみたいな果物は「苺」だよ。水があって、波頭が立つ、命のお母さんは「海」だよ。
本文に追加しましたが、「書く」ときには、文字を紙のマス目の上に書く前に、腕や全身の動きで表現すること、しかもリズミカルに歌でも歌いながらやること、そうじのモップで床に文字を書いて遊ぶとか、とにかく体を動かすことをやったほうがよいです。
「漢字の既出いかんにかかわらず、教科書にはどんどんルビを振る」、日本語を外国人に教える際にも、これは有効ではないかと思います。読解を教えるときに、一番教えづらいのは、熟語の読み方です。一体どうすれば、読み方の習得が進むのか、考えていますが、今のところは、月並みな「経験でこなせ」しか言えないのは何だか情けないものです。
日本人の暗算能力もインド人には敵いません。アチラさんは中学で99x99の暗算をこなします。世界中の両替商(銀行・金融業に非ず)の大半が印僑によって占められているのもこんなことが一因なのでしょう。
漢字も英語も頭で無く腕で覚える!
ちなみにこれはテストの一夜漬けにも有効です。カンニング・ペーパーを造ることは集中力が要り、要点のみを書いていかなければなりませんから結構頭(と腕)が覚えています。
欠点は・・・一度試験が終わると全て忘れてしまうこと、フラッシュメモリに上書きしているようなモノですか・・・
それにしても毎度ながらえのさんとヒロさんの雑学博識振りには恐れ入ります。
>千夜千冊『漢字の世界』白川静
>http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0987.html
『 では、そこまで一途に探求した白川さんが文字文化についてどんな結論をもっているかというと、文字は社会のコミュニケーションのために進化などしないという恐るべき結論なのである。
もし文字が社会の交信や理解の複雑化とともに進化するのなら、文字には多くの社会性が反映されてきたはずだ。けれどもエジプト古代文字も中国古代文字も、まったくそのような反映を見せなかった。見せなかったばかりか、文字は社会のごく一部の“聖所”か“王所”のようなところで考案されたのである。<中略>
そこで、次のような問題がわれわれの前にあらためて投げ出されることになる。
それは、日本にはなぜ文字が生まれなかったのかということだ。この問題を解いた者はまだ誰もいなかった。しかし、一人、白川さんだけが解答を出したのだ。また、白川さんが解答を出したということも、おそらくほとんどの人は知るまいと思われる。ぼくが想像するには、宮城谷昌光さん(第391夜)くらいが気がついたのではないかとおもう。
白川さんの解答は、日本には「神聖をあきらかにしようとした王」がいなかったというものだ。統一王も、統一をめざした王もいなかったのである。まして、神聖者との応答を解読し、それを表記したいとも思わなかったのだ。』
本文で紹介した『98部首カルタ』の宮下久夫は、偉大なる白川静のお弟子さんで、生前は小学校の先生。石井式漢字もいいが、白川静と宮下久夫の功績もお忘れなく。
『分ければ見つかる知ってる漢字―白川静先生に学んで漢字の学習システムをつくる 宮下久夫遺稿集』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/481180659X/503-5152373-7954317
私が大学時代、石井勲先生の「漢字教育法」という授業がありました。
ずいぶん前の事ですのであまり覚えていませんが、以下の内容は覚えています。
1.画数の多い漢字が難しいというのは間違い。子供は、どんな漢字も覚える能力がある。
2.今の教育は概念を表す漢字を学んだあとに、実際に存在するものの漢字を教えている。実際に存在するものの漢字を教えてから、概念を表す漢字に進むべきである。
例:「木」→「松」「杉」でなく、「松」「杉」→「木」。
3.現在の印刷物はルビを避けて平仮名を使うようになっているが、これは間違いである。
4.今の教育は、書き順、画数、止め、撥ね等どうでもいい事にこだわりすぎる。
5.幼児向けの漢字教育は、書く事よりも読む事に主眼をおくべき。
授業と言うより、ほとんど自己主張ばかりだったと記憶しています。
ところで私の住む静岡県浜松市が来年、政令指定都市への移行を目指しておりますが、新しい区の名称を決めるに当り、今の(浜松の)年寄りが漢字や伝統に対してあまりにタコな見解しか持っていない事に愕然としました。他の新政令市がどちらかと言えば伝統的な地名を残している中で、七つの内の五つの区が何と「中」と「東」「西」「南」「北」と言う無個性の名前になる上に、「北区」となる旧・引佐(いなさ)郡には「引佐区」と言う立派な候補があるにも関わらず、将来読める人がいなくなる可能性がある言う理由で(しかも「禍根を残さない」為に)「北区」に決めたと言うのです。これを見て思ったのが、今の(浜松の)年寄りは、日本中で一番日本の文化についてな〜んも考えていないんだろうという事でした。将来の浜松市民は、自分の住む土地の名前もわからなくなると思っているんでしょうか?
最後は、あまり関係のない事のようで、申し訳ありません。
http://www25.big.or.jp/~yabuki/chosaku/renpo96.pdf
『西欧文化圏をまとめたユダヤ・キリスト教には「はじめにことばありき」(バイブル)という信念が一貫している。バイブルは、さまざまな言語に訳されたが、そのことに人びとは少しもうたがいをもたなかった。これに対して、回教は「コーランの翻訳」を絶対に認めない伝統をもっていた。両者に対して漢民族の伝統とはなにか。あえていえば「はじめに漢字ありき」である。書きことばと各地の人びとが実際に話すことばとの乖離は、あまりにも長い間支配的であったので、漢民族の間ですら「漢字によって書かれた言語」のほうが自分たちの「口にする言語」より本物であると観念されてきた。北京人と上海人、四川人と広東人のあいだで「話ことばが通じないこと」は、「漢民族としてのまとまり」にとって少しも障害にならなかった。』
なぜ音読みが幾通りもあるのか?
http://homepage1.nifty.com/forty-sixer/goonkanon.htm
>人類はすべからく「絵文字」から「音文字」に移行してきたわけだが
とありますが、この“全て”と言う意味で用いる『すべからく』は誤用です。
“全て”と言う意味を、少し高尚な教養ある言い方で言い換えたつもりで、
使う人を良くみかけますが、漢字では『須く』であり、
“全て”と言う意味は,全然有りません。よく勉強してみて下さい。
誤用犯罪を監視する自警団の方ですね。夜回りご苦労様です。
以後、すべからく注意いたします。
(御用だ、御用だ!)
漢字の解読について
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象形文字の秘密
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