2006年01月09日

「聖母マリア崇拝」と「中世騎士道精神」のシェークスピア

イギリス文学、近代英語の父といえばシェークスピアだが、個人的にはあまり関心がない。生地のストラットフォード・アポン・エイヴォン(Stratford-upon-Avon)に行っても、ロンドン・グローブ座(Globe)で「ロミオとジュリエット」を見ても、取り立てて心に響くものはなかった。

昨年、シェークスピア専門のグローブ座に行ったときに、少々気になったのは、併設されているブックコーナーで「シェークスピアは別人説」の本がやけに目立っていたことだ。

  • 『Shakespeare by Another Name: A Biography of Edward de Vere, Earl of Oxford, the Man Who Was Shakespeare』(Mark Anderson)
  • 『Who Wrote Shakespeare?』(John F. Michell)
  • 『Who Wrote Bacon?: William Shakespeare, Francis Bacon and James I, a Mystery of the Twenty-first Century』(Richard Ramsbotham)

    オックスフォードの伯爵や哲学者フランシス・ベーコンと同一人物ではないか、という推理ゲームが盛り上がっているわけだが、先日、この問題に詳しいというイギリス人と話をしたところ、「別人説はありえない」とのこと。

    彼曰く、シェークスピアの4大悲劇から、最後の戯曲『あらし(Tempest)』に至るまでの、あまりにも深いメッセージの流れを理解すれば、ベーコンごときの低レベルに書ける内容ではない、という。そして何よりも、シェークスピアは「薔薇十字団(Rosicrucian)」の会員であったという。

    えっ? シェークスピアは秘密結社「薔薇十字団」の人なの?!「あまりにも深いメッセージ」とは何のことかわからないのだが、ザーッと検索してみると、こんなサイトがあった。

    Shakespeare -- The Lay Bible
    The works of Shakespeare, like the music-dramas of Wagner, Goethe's Faust, Dante's Divine Comedy, and a few other books of comparable rank, are designed for esoteric as well as exoteric reading. They are direct communications from planetary centers of Divine Wisdom. In the case of Shakespeare, the source was the Western Wisdom School of the Rosy Cross. To the esotericist no other evidence of this is required than the works themselves. But specific signatures, cryptically conveyed, are also present in the dramas. In Love's Labour's Lost a whole scene is devoted to revealing the Rosicrucian connection; but it is so ingeniously involved in the banter of words that only those possessing the keys to its veiled meanings will read it aright.

    シェークスピアの喜劇『恋の骨折り損(Love's Labour)』は薔薇十字とのリンクを露骨に表しているという。このサイトは、シェークスピアとフランシス・ベーコンの両方が薔薇十字会員であるとしている。シュタイナー系の大学では、シェークスピアの最後の作品『あらし(Tempest)』の方に神秘学的な深い意味を見出しているようだが、私は不勉強なためその「意味」をここで説明できない。シュタイナー思想に言わせると、「薔薇十字団」や「テンプル騎士団」こそが本当のキリスト教徒である、という主張らしいので、私もボチボチとシェークスピア研究に取り組むことにしたい。

    大学の図書館に行くと、シェークスピア作品分析で日本語の本が何冊かあったが、ピーター・ミルワードの本がおもしろかった。

    ◆ピーター・ミルワード『シェイクスピアと日本人』(講談社学術文庫 1997) p150
    シェイクスピアの態度は、基本的に聖母マリア崇拝と中世騎士道精神に影響されているように思えるのである。そのような傾向はチョーサーの詩にもあるが、ミルトンの詩には認められない。

    この著作では、千利休の友人・弟子にキリスト教徒(イエズス会)が多かったことをあげ、「茶道とカソリック儀式の類似性」についても指摘している。また主人公のカップルが自殺して終劇する3作品(『ロミオとジュリエット』『オセロー』『アントニーとクレオパトラ』)と日本の『曽根崎心中』も比較している。

    『空騒ぎ(Much ado about nothing)』という作品がある。「大袈裟に騒ぐ(Make a big deal out of it)」「コップの中の嵐(tempest in a teacup)」「モグラの巣から山をつくる(make a mountain out of a molehill)」と同じような意味だが、本当は「nothing」に「noting(スパイをする)」が掛けてあり、作品の中には「スパイ行為」が1つのテーマになっているという。

    シェークスピアで最も有名なセリフは、『ハムレット』の「To be or not to be; that is the question.」(生か死か、それが問題だ)だが、これは「現状を耐え忍ぶか、それとも死を覚悟して行動すべきか」という、シェークスピアのほとんどの作品に流れているテーマであるという。イギリスにいるのに不勉強、極まりなし。

    これからシェークスピアと薔薇十字団を勉強してみようかな、というメモみたいなものでした。お粗末。

    ■お口直しに「To be or not to be」といえば・・・・
  • その昔、「NHKラジオ続基礎英語」に「To be to be ten made to be」というのが載っていた。英語ではなくて、日本語のローマ字で読むのが正解とのこと。

  • 1998年にピースボートの上でインド人のジョークを通訳しました。
    「The German philosopher Schopenhauer once said "To be is to do."」
    通訳:「ドイツのショウペンハウアがかつて言った。『存在とは行動することだ』と。
    「The French existentialist Sartre said "To do is to be."」
    通訳:「フランスの実存主義者サルトルは言った。『行動こそが存在することである』と。
    「Then, what do you think American singer Frank Sinatra said?」
    通訳:「では、アメリカの歌手フランク・シナトラは何と言ったか?」
    「Tobe dobe tobe dobe tobe dowaaaa, tobe dobe tobe dowaaa...」
    通訳:「トゥビドゥビ、トゥビドゥビ、トゥビドゥわぁぁぁぁ・・・」

    ■この映画はどんなものか・・・
    SF映画選『禁断の惑星』
     この映画の原作というよりは、下敷きとなったのはウィリアム・シェークスピアの「テンペスト The Tempest」(1610年-11年)です。未来を描くのにも古典は有効であるという証左になっています。プロスペローは弟のアントーニオの反逆により、ミラノ大公という地位を奪われ、美しい娘ミランダとともに孤島に追放されています。魔術と妖精エアリエルを用いて、本来のあるべき秩序を取り戻そうと試み、島に流れ着いたナポリ王一族や怪物キャリバンもからみながら、全てが治まると魔術を封印することになります。映画は忠実にこの構成をなぞっていると言っていいでしょう。
     「テンペスト」は「テンペスト The Tempest」(79年・英)や「テンペスト Tempest」(82年・米)があります。後者は音楽をツトム・ヤマシタが担当しています。比較的最近では「プロスペローの本」(1991年・英仏)も「テンペスト」が原作です。この映画の監督はピーター・グリナウェイですから、ちょっと異質な感覚です。「Books」とあるように本を縦糸にして描かれています。
     シェークスピアはこの「テンペスト」を書くにあたり、プロスペローのモデルとした人物がいます。John Dee 1527-1608 という人物で、エリザベス朝時代の思想家・数学者・占星術師でした。旧来の魔術を科学の域に高めようとしましたが、一般には黒魔術師と思われていた人です。メアリー女王ならびにエリザベス1世の政治顧問になり、両女王の戴冠式の日付けは彼の占星術により決定されました。晩年は降霊術に凝り、降霊術師ケリー Edward Kelly(1555頃‐?)を通して天使と対話し霊的知識を得たとされています。その著作は薔薇十字団にも影響を与えました。

    ■関連記事
  • 「あなた」好みの暴走族・・・汝、シェークスピアを観るべし
  • posted by ヒロさん at 10:14 | Comment(5) | TrackBack(0) | 神話・宗教・民俗学
    この記事へのコメント
    TITLE: 今年の野望ですね
    これまたすごい興味深い野望を!
    英文学、英国史は激しく疎いので研究成果を楽しみにお待ちします。
    シェイクスピア絡みではフランセス・イェイツの論考などもお勧め。・・と言っても既にヒロさんのアンテナに入っておられるかもしれませんね。ルネッサンスに華咲いたネオプラトニズムの系譜から解き明かす論考、その名もズバリ「世界劇場」ジェルダーノ・ブルーノの研究家でもある。
    わたくしは上記の通りシェイクスピア翁とその周辺には激しく無知なので、この本読んでも、いまいち判らんかった(ので積読になった)が、ヒロさんならいけるのではないか?などと思います。
    というわけで応援がてら、期待。
    Posted by あんとに庵 at 2006年01月09日 18:47
    TITLE: もしや『テンペスト』のアントーニオ様では!!
     もしやあなた様は、『ジュリアス・シーザー』のアントニー様、はたまた『テンペスト』のアニトーニオ様では!!
    >これまたすごい興味深い野望を!
     「シェークスピア」と「薔薇十字団」は壮大遠大すぎて無縁で過ごしたかったのです。が、禁断のパンドラの箱を開けてしまったので、さてどうなることやらです。この2つを、ノートル・ダムに詳しいジョセフ・キャンベルの「神話学」や、教育からみで私が興味がある「シュタイナー」を軸にして、どこまで切り込めるかですね。私の通っているシュタイナー大学では、フランスのシャルトル詣で(もうで)があり、アート系学科と20才未満対象のオリエンテーションコースでは、毎年必ず行っています。私もシャルトル行きが夢なのです。あんとに庵様はもう何度も行っているのでしょうね。ああ、シャルトル行きの夢が叶いますように!
     フランセス・イェイツですね。了解しました。いよいよブルーノの世界にも旅立てます。
     シェークスピア=「フランシス」・ベーコンという説を始めてとして、最近わが家では「フランシス」の縁が強まっております。明日、フランシスに関する駄文を書きますので、どうか冷やかしでも結構ですので、またお立ち寄りください。
    Posted by Hiro-san★ブログ主 at 2006年01月09日 22:37
    TITLE: テンプル騎士団
    テンプル騎士団−聖杯伝説
    http://www.voynich.com/templar/index.html
    ナチスの狂気
    http://inri.client.jp/hexagon/floorB1F_hss/_floorB1F_nazis_X.html
    『ナチス前史を溯って行くと、19世紀末ウィーンに芽生えた2つの宗教的サークル(秘密結社)に行きつく。ランツが創設した「新テンプル騎士団」と、リストが創設した「リスト協会」である。』
    Posted by えの at 2006年01月09日 23:47
    TITLE: 禁断の惑星
    あの原作が「テンペスト」だったとは気がつきませんでした。
    言われてみても気がつかない(笑)。
    「プロスペローの本」(1991年・英仏)については、橋本治が気合いの入った評論を書いていた記憶があります。
    テンペスト、どの映画だったか覚えていないけれど、「ブリキの太鼓」のオスカル少年やった男の子が成人して出ていた。日本版ビデオでボカシ入れ忘れ部分があったのが印象に残ってます。orz
    イギリスのインテリが、なんてことない会話の中でシェークスピアの一節を引用して色をつけるのは、日本だと昔なら歌舞伎や浄瑠璃の有名フレーズを引用したりしてたのと似たような感じだと思うけど、もう日本ではインテリ層が歌舞伎など知らなくて普通になって久しいから、そういう習慣も消えましたね。
    Posted by nessko at 2006年01月10日 06:35
    TITLE: 薔薇十字団
    薔薇十字団運動とアンドレーエ
    http://www5e.biglobe.ne.jp/~occultyo/barajuuji.htm
    クリストファー・マッキントッシュ『薔薇十字団』
    http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0698.html
    Posted by えの at 2006年01月10日 08:53
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