シーズン1に取り組み始めた3年前は、英語字幕なしではわからない部分が山ほどあったが、最近は、字幕なしで十分に楽しんでいる。しかし、ストーリーを楽しく追いかけられるというだけで、細々とした部分で不明点はいっぱいある。
英語をそのままに理解するための最後の砦は、固有名詞だ。ポップカルチャーの宝庫と言われる番組なので、エピソードの随所に放映当時の時事ネタや話題の人が仕込まれている。文学、音楽、美術、演劇、料理、食品、映画、人気TV番組のネタやほのめかし(allusion)もある。CMフレーズ、流行歌の一節などを引用されるとほとんどお手上げの感があるが、惚れ込んだドラマであればこそ、“精読”の楽しみは尽きることがない。
最近、無料視聴サイトのGyaoで、たまたまシーズン3の「字幕版」と「吹き替え版」の両方が配信されていたので、お気に入りのエピソードの1つである「3-8:Let the Games Begin」(2002年11月放映)の固有名詞を網羅的にチェックしてみることにした。
■オープニング・シーン
直前のエピソードは24時間ダンスマラソン大会になっており、終了後に朝を迎えた主人公の母娘は疲労困憊で歩く気力も起こらず、行きつけのダイナーにやっとの思いでたどり着く。
ローレライ: We're lucky it wasn't snowing. It would've been The Donner Party all over again, but with slightly better hair.(雪降ってなくてラッキーよ。ドナー隊になるところだったのよ、髪だけはいくぶんまともだけど)
ドナー隊(Donner Party)はアメリカ西部開拓史の基礎知識。1846年に幌馬車で山越えを試みた約100人の一行が、雪で立ち往生となり、大量の死者を出し、生き残った人たちはカニバリズムを余儀なくされたという「悪魔の正餐」にも似たストーリー。
足がクタクタだったので、朝食を注文する場面でジョークを交える。日本語吹き替え版では「疲れ知らずのカモシカのような足をちょうだい」のようになっていた。英語ではどのように話しているか。
ローレライ: We need a couple of donuts, and, uh, some of those extra legs Heather Mills is sending over to Croatia. (ドーナツを2〜3個ちょうだい。それと、ヘザー・ミルズがクロアチアに送っている余分な義足もちょうだい)

オープニング・シーンは何の脈絡もなく「ネタ」が挿入されやすいので、短い音節の固有名詞はなかなかキャッチできない。私は「Donner Party」と「Heather Mills」も、かすりもしない素通りに終わった。
■恒例の金曜ファミリーディナー
お腹がペコペコの状態で、両親宅の金曜ディナーに赴く。料理が出てくるのを待ちきれないので、「食欲が失せるものを何か思い浮かべればいい」という話になる。この世でもっとも食欲が失せる顔は Ari Fleischer(アリ・フライシャー) だという。2001〜2003年のブッシュ政権の報道官だ。ギルモア・ガールズは、反ブッシュ政権・反共和党で貫いており、共和党員の怒りを買っている番組だ。
母親エミリーから、あなたの空腹はそんなに大変なの、と聞かれ、オヤジギャクで応答する。
エミリー: You can't wait ten minutes for another salad? The situation is that dire?(サラダまで10分待てないの? 状況はそんなに大変なの?)
ローレライ: Right now it's 'your money for nothing and your chicks for free.'(今はね「あぶく銭を稼ごうぜ、女はタダで寄ってくる」なのよ)
質問の文末の「dire」があることから、Dire Staits(ダイアー・ストレイツ)という英ロックバンドが歌った「Money For Nothing」(1985年)の歌詞をつぶやいている。この種の一本背負いギャグは、まず拾うのが不可能。オヤジギャクで釣ってきた Dire Straits は1995年に解散しているが、2002年に一部メンバーが集まってチャリティーコンサートをしているので、これも時の人と言えるだろう。
主人公ローレライの父親リチャードは、その昔イェール大学の在学中に「Whiffenpoofs」という実在のアカペラグループに入っていたという設定になっている。
リチャード: I'm no Perry Como, but my shower hasn't kicked me out yet.(ペリー・コモには及ばないが、まだグループから追い出されていないんでね)

Whiffenpoof は架空の生き物の名前だが、発音が難解なところにつけ込まれて、主人公ローレライの茶化しの対象となっている。
ローリ: He's going for some nostalgia thing. For a reunion of, I don't know, the Whiffenhoofs.(おじいちゃんは懐かしい集まりで行くの。ウィッペンフーフだっけ?)
ローレライ: Poofs.(プーフよ)
ローリ: What? (なに?)
ローレライ: Whiffenpoofs.(ウィッペンプーフ)
「Poof」は「うんち」「めめしい男」の意味。あるいは「ふん!(なに、それ)」とバカにするときの言葉。後の場面で、ウィッペンプーフの懇親会に参加することを「プーフする」と動詞として使い、再度バカにしている。
母エミリーは、メイドに難癖をつけて次々とクビにしているが、この日、サラダを4回作り直させたことを見かねたローレライは、そんなことしてると、いつか使用人に恨まれて大変なことになるかもよと、建築家 Frank Lloyd Wright(フランク・ロイド・ライト)の自宅で起きた惨殺事件を生々しく語り始める。
1914年8月20日に実際に起こった事件で、使用人が家のドアと窓をロックした上で火を放ち、何とか外に逃げ出した人も斧で惨殺したという猟奇的な事件。同居している愛人、子供、自分の弟子など7人が死亡。ライト自身はたまたまシカゴに出張中で留守をしていた。彼はこの悲劇のあとに、日本に赴いて帝国ホテルを建てていたのだ。
■ダイナーの2階
ローリとジェスがつき合い始めたので、ルークがジェスにクギを刺す場面。
ルーク: On weekdays, you will have her home by nine. On weekends, you will have her home by eleven. Any evidence of alcohol, cigarette smoke, or anything else that Nancy Reagan would find unacceptable...(平日は彼女を9時までに家に帰せ。週末は11時までだ。アルコールや喫煙、ナンシー・レーガンが認めないようなことが発覚してみろ、そうしたらな・・・)
レーガン大統領夫人のナンシー・レーガン(Nancy Reagan)は、麻薬撲滅運動の推進で有名だが、少々過去の人だ。なぜここで引用されるのか、と調べると、2002年7月9日にレーガン夫妻が議会から名誉勲章を授与されている。
■イェール大学訪問に出発する前
イェール大学のあるニューヘイヴンで、おいしいレストランがないかな、とグルメガイドを開いているローレライ。
ローレライ: You haven't had a taco until you've spent some time at Hector's, crisp and meaty...(ヘクターズを訪れるまではタコスを食べたとは言えません。サクサクとして、お肉たっぷり・・・)
ローリ: Dirty.(いやらしい)
この会話は「ヘクターという店」→「お肉たっぷり」→「いやらしい」という展開で、ハンニバル・ヘクターを意識している模様。「羊たちの沈黙」の続編となった「ハンニバル」は2001年公開。
そして次は、1日の旅行だけれど、エミリーのチェックが入るから、荷物はあらゆる不測の事態に備えてちゃんと準備しておかないとダメだよと、ローレライがローリに諭す場面。
ローレライ: Never give her the opportunity to give you a thirty-minute lecture on how, if you'd brought the second bathing suit like she told you to, it wouldn't have mattered that the first one's strap broke in a freak poolslide incident that no one, including the Amazing Kreskin, could've predicted, you would've been covered.(彼女に30分のレクチャーをさせる機会を与えちゃダメなの。たとえば、言われた通りに2つ目の水着を持ってきていればね、変なプールサイドの事故で1つ目の水着のひもが切れちゃうなんていう、アメイジング・クレスキンとか誰も予想できないことが起こったとしてもね、何も問題もないし、ちゃんとカバーできたでしょうに、とか言われるの)
こういう仮定法のセリフをハイスピードで一気にまくし立てられても、しっかり聞き取れたら英語上級。クレスキン(Kreskin)という人は「The Amazing World of Kreskin」(1970〜1975年)という番組で有名になった神秘家で、2002年6月にラスベガスにUFO大編隊が現れると予言していた。
■イェール大学キャンパス
ギルモアガールズは、美術・演劇・文学の話も充実している。
ローレライ: He's got the smart look down. The glasses, the furrowed brow, the ticky walk.(彼は頭のよさそうな顔つき。メガネ、ひそめた眉、刻むような足取り)
ローリ: The Kierkergaard.(キルケゴールばりね)
「キーカガー」のように聞こえる人名がキルケゴールとわかれば、ご喝采。
ローレライの父母はイェール在学中に知り合い、後に結婚している。学生当時のデートやプロポーズの裏話がポツポツと語られる場面だ。リチャードはデート相手をよく美術館へ連れて行っていたという。
ローレライ: Using Titian to score. Even Titian didn't do that.(ティツィアーノで色仕掛け。ティツィアーノだってそんなことしなかった)
リチャード: You shouldn't tell them this. They'll think I was some kind of lothario.(エミリー、こんな話はやめなさい。私が遊び人(女たらし)のように思われるじゃないか)
英語で「ティシャン」と呼ばれているのは、16世紀のイタリアのマルチ芸術家のティツィアーノ(Titian)。一方、ロサリオ(Lothario)は18世紀に人気を博した演劇「Fair Penitent」の登場人物。
リチャードはエミリーに対して「そういう君だって、何も知らない小娘だったわけじゃないだろ」と応戦して、別の人との婚約が決まりかけていたところに、エミリーがリチャードを奪い取った、という話に発展する。
リチャード: When you showed up at my fraternity party in that blue dress, I had no choice.(男子クラブのパーティーにあの青いドレスで来られたら、もうぞっこんだよ)
ローレライ: You stole my father with fashion.(パパの心をファッションで盗んだんだ)
エミリー: I can't believe you remember the dress.(あのドレスを覚えてるなんて信じられない)
ローレライ: I can't believe you were the other woman.(ママが略奪した方だなんて、信じられない)

「バットマン」「猿の惑星」「チャーリーとチョコレート工場」などで知られるこの女優は、2001年から映画監督の Tim Burton とつき合い始めているが、これは略奪恋愛。
エミリーのスカートのボタンが取れたので、ローレライと一緒にお手洗いへ。
ローレライ: All right, then, I think there's a bathroom over there.(それだったら、あそこにお手洗いあるわ)
エミリー: What can we do in a bathroom?(お手洗いで何するの?)
ローレライ: Meet George Michael.(ジョージ・マイケルに会いに行くの)
クリスマスシーズンが近づくと、どこからともなく「ラストクリスマス」という曲が流れてくるが、Wham!のジョージ・マイケル(George Michael)の歌声だ。彼はトイレで猥褻行為を働いたとして1998年に逮捕されたが、これに関連する裁判が2002年12月3日に結審しているので、これまた話題の人だ。
エミリー: What do you intend to do with that paper clip?(クリップで何をするつもりなの?)
ローレライ: I intend to carve something really dirty into the bathroom door. What rhymes with Nantucket?(トイレのドアにすごくいやらしいこと刻みつけるの。Nantucket と韻を踏むのは何だっけ?)
クリップでスカートを仮止めしてあげるときの会話。ナンタケット島(Nantucket)はコッド岬の南方にある実在の島だが、「There once was a man from Nantucket」で始まるエッチな5行詩(limerick)が有名。江戸時代の卑わいな川柳みたいなもの。Nantucket は「fuck it」や「suck it」といった怪しいフレーズとゴロ合わせがよい。(Nantucket は、エピソード「4-16:Reigning Lorelai」にも登場する)
その後、大学の建物の中に入り、ローリがいきなり入学面接を受けることになる。
ローリ: I can’t believe the only name that popped into my head when he asked for my role model was Gloria Estefan.(尊敬する人を聞かれたとき、思い浮かんだ名前はグロリア・エステファンだけだったなんて、信じられない)
ラテン系歌手のグロリア・エステファン(Gloria Estefan)が言及されているが、これは少々不自然。マーケティングのタイアップの可能性もあり。
■スターズホローに戻る
ロリーがタバコを手にしたジェスを見つける場面。
ローリ: You going to smoke that or mind meld with it?(そのタバコ吸うの、それとも合体しようとしてるの?)
ジェス: It depends.(場合によりけりだな)
「mind meld」はスタートレックのネタ。バルカン人は相手に触れて「マインド・メルド(テレパシーによる精神融合)」をすることができる。ギルモアガールズは、過去の映画・ドラマのネタも多い。
ローレライ: Don't study so much that you get brilliant, go mad, grow a big bald egghead and try to take over the world, okay, because I wanna go shoe shopping this weekend.(あんまり勉強して、頭よくなって、気が触れて、でっかいハゲ頭になって、世界を征服しようとするなよ。いい、今週末は靴のショッピングに行きたいんだからね)
エンディングのたわいもない会話だが、「ハゲ頭になって、世界を征服する」とは、人気TVドラマ「Smallville」のレックス・ルーサー(Lex Luthor)のこと。若き日のスーパーマンを描いた「Smallville」も私のお気に入りのドラマだ。(Smallville のネタは、エピソード「3-21:Here Comes the Son」にもあり)
また、飲みものを出すシーンで「コーヒーとオバルチンよ」というセリフがあるが、これは広告かも。オバルチンは麦芽飲料。
以上で大体を網羅したつもりだが、まだまだ気づかない点がたくさんあるかもしれない。ヘザー・ミルズ、アリ・フライシャー、ダイアー・ストレイト、ペリー・コモ、ナンシー・レーガン、ヘクター、クレスキン、ヘレナ・ボナム・カーター、ジョージ・マイケルは、すべて放映時期に関係ある時事ネタであり、時の人だ。
ギルモア・ガールズを“精読”すると、10年前の英語圏の世相とポップカルチャーが見えてくるというわけだ。
この記事を読みながら、昔、テレビで人気のあった、
「奥さまは魔女」なども、
英語の分かる人たちには、別な意味で「面白い」表現があったのだろうなぁ。
そんな風に、思いました。
日本語では危ない表現も多々あったのだろう、と。
時代はちょっと後になりますが、ブルース・ウィリスという俳優に注目が集まった「ブルームーン探偵社」(原題:Moonlighter)は、少々気になったのでボチボチ眺めております。こちらは1980年頃の世相がわかります。
彼は、コメディ番組で売り出した俳優なのだそうですね。
長いセリフは、短いセリフと同様に、役者にとって重要なものだと思いますが、
饒舌を煩わしくなく「聞かせる」のも演技のうちなのだと思います。
ディック・ヨークという名前には憶えがあります。
サマンサの「ママ」にカエルに変えられたりした男優ですね。
あの番組では、確か、ダーリン役が交代したと記憶しています。
http://www.youtube.com/watch?v=wDMfGIDCR3A
コンピュータ技術で全編のカラーバージョンができてるんですね。
各シーズンがわずか10ドルのお値段。70年代の世相研究として、ちょっと欲しくなってきました。
11/8からテレ東で始まる「世界の料理ショー」の2カ国語音声で勉強することにします。
「世界の料理ショー」というのは、まさか1969ー71年の「Galloping Gourmet」のこと?
http://www.youtube.com/watch?v=czrj4yJm6z0
たぶん90年代の続編の「The Graham Kerr Show」の方ですよね。
おそらく初期の番組は2か国語放送のなかった時代なので年末くらいからでしょう。
更に言えば、ダーリンの仕事(コピーライター?)内容が、今一つ理解できず、
アメリカという国は、日本とは違うのだなぁ、と感じていたものです。
また、顧客になってくれそうな事業主を自宅に招いて接待する場面も多く、
それがアメリカ流のもてなし方なのだと思ったりしたものです。
そんなこんな、色々な思いがありますが、
あの頃のアメリカは、確かに輝いていたと思います。
5−6年前にこのシットコンシリーズはもう完了して要るんじゃなかったかしら。よく当時小学生だった娘とこのGGをテレビがない我が家はDVDシリーズで競い合う様に観て、ウェール大学に憧れ自分もここに行くと希望大学を設定していました。地元に住んでいるものとしては、このポップな固有名詞の部分はもうかなり古くなり、
会話の中にぽんぽん出て来ていた地元のお店はもう閉鎖したり,
会話の中に引用されている社会事情も、もう使い古されtoo cliche になってしまった感があります。
こういうのって、テンポがめまぐるしく変遷していきますから。もう高校生や大学生の息子娘たちとの会話は付いて行けてません。しかし面白いのは、彼らも常識として1960−70年代の音楽を知っていて、これはまたリサイクルするんだなと感慨に耽ってしまうことです。catch twenty twenty いつもで経っても追いつけない若者の会話でした。さらに黒人の英語も、白人がまねして話しだしたらまた新しい表現が自然発生的におこってくるのにも似ているかもしれません。